繋いでいるのは<1>
ことの始まりは、一通の小包。
奈良家に届いた郵送物を、ヨシノが受けとったことから。
「誰からだ?」
居間からひょっこり顔を出して、この家の当主が小包の送り主を妻に伺う。
「それが・・・」
苦い顔を隠しもせず、ヨシノは送り主を言葉にはせず黙ってシカクに手渡す。
「げ・・・」
送り主を見てシカクもおおいに顔を引き攣らせた。
「・・・まあ、そろそろ来るかなーとは思ってたがなぁ・・・」
「これって、絶対アレよね・・・」
「ああ・・・再三電話で断ってたもんで送りつけて来やがったんだな」
小包を見つめたまま、とりあえず居間に持って行くかと運び込み、卓袱台に乗せる。
「・・・コレ、うちには届かなかったってことにして燃やしちゃわない?」
「馬鹿、そしたらまた同じ物送って来るっての」
そうよね、と眉間に皺を寄せて奈良夫婦は仲良く溜め息をついた。
すると、ガラガラと玄関の戸を引く音。
夫婦は顔を見合わせて、戸を引いた主を出迎えに行くことにした。
「あ、ただい、ま・・・?」
「シカマル、ナルちゃんは?一緒?」
「は?ナル・・・?いや、一緒じゃねぇけど」
忍なら自分で気配探ってみろよ、と呆れ顔のシカマルを押しのけて、玄関をきょろきょろと確認する両親に
訝しげに見つめながらサンダルを脱ぎ捨てる。
ナルトの姿がないことに、ほっと胸を撫で下ろして、ヨシノはシカマルの背を押して居間へと押し込んだ。
「な、なんだよ・・・?」
「それ」
ヨシノは指で卓袱台に乗っていた小包を指差し、あんたによ、と促した。
「俺に?」
誰だ?と送り主を確認して、げ、と眉を寄せた。
「・・・コレ、見なかったことにして燃やしても良いか?」
「それ私も同じこと思って言ったわよさっき・・・」
やっぱり親子だな、と苦笑するシカクをシカマルが睨む。
燃やして済む話なら良いのだ。
それだけでは問題の解決にならないことはさすがにシカマルだって分かっている。
「はぁ・・・」
溜め息と共に、緩慢な動作で包みを開ける。
中には、ゆうに30センチの高さがある写真。
送り主は親戚。
写真は、いわゆる見合い写真という訳だ。
シカマルは今24歳になっており、実は20歳を迎えたときからちらほら結婚の話をされてはきたのだ。
それが鬱陶しくて任務にかこつけ、ここ数年親戚同士の新年会やらの集まりには顔を出さなかった。
それに痺れを切らしてお節介な親戚の伯母達がこうして写真を送って来たのだろう。
手紙も入っており、見るだけで良いから見てちょうだい、といった内容がつらつらと便箋5枚にわたる力作が
したためられていた。
「あらあら、皆いいとこのお譲様じゃない〜。綺麗なお着物着て。これなんて絶対特注よ」
いくつか手に取り、ヨシノは感嘆とも呆れるとも取れる声を上げた。
「お前にゃもったいないくらいの子達じゃねーか」
くっくっく、と笑いを噛み殺しもせずシカクが笑う。
眉間の皺が深くなり、しかしシカマルは写真を手に取って、パラパラと捲り、パッキンに戻す。
要点が濁されていて読みにくい、と手紙はすぐに屑篭へ放られ、小包を庭へと運び出すシカマルに
シカクが何するんだ?と一緒に庭へ出た。
「燃やすに決まってんだろ。手紙の通り、見るには見たし。俺にはナルがいるし」
(こんなものあいつが見たら大変だっての)
ただでさえ自分に自信を持っていないナルトがこれを見て取る行動など決まっているのだ。
シカマルの元を離れるか、自身の命を絶つか。
シカマルと共に生きる、という道は選ばないのだろうと思うとなんだか悲しいものがあるが、
今でさえ本当に自分で良いのかと疑心暗鬼に陥ることが頻繁にあるのだ。
そのたびにシカマルはお前じゃなければ駄目なのだと言い聞かせて繋ぎとめている。
ギリギリの、ラインで。
マッチを取りに行くのも面倒だ、と火遁で灰にした。
小包は数秒で灰となり、風に乗ってさらさらと消えてしまった。
一部始終見送って、シカマルは玄関に向かいサンダルを引っ掛ける。
「あら、どっか行くの?」
帰って来たばかりじゃない、とヨシノはつまらなそうに唇を尖らす。
「気分が落ちたから、癒されに帰る」
言い終わると共に瞬身で消えた。
帰るって、ここがお前の実家だろう、とはヨシノもシカクも言わない。
シカマルにとってここは実家で帰る場所ではあるが、本当の意味で帰る場所は可愛い金髪の元である
ことを知っているから。
ナルトはというと、本宅にいた。
馴染んだ気配を感じ取って、干していたクッションを取り込んでいた手を休め、やって来るだろう
方向を嬉しそうに見つめる。
「ナル・・・」
森の影からゆっくり浮き出る人影が姿を現す。
「お帰りなさい、シカマル」
干していたクッションを抱きしめたまま、ナルトがシカマルの元へ近付く。
ことりと首を傾げた様子が可愛くて、シカマルは腕を広げてクッションごとナルトを抱き込む。
ナルトも16歳になり、出会った頃よりは背が伸びて、だんだんと緋月の姿に近付いてきていた。
いつになく甘えてくるシカマルに、何かありましたか?と抱きしめられながら問う。
「・・・や、たいしたことじゃねぇよ」
気にすんな、と腕の力を少し緩め、ナルトの瞼に軽く口付けた。
「なあ、ナル」
「はい?」
「お前はずっと俺の隣にいろよ・・・?」
「シカマルが望んでくれるのなら、いますよ」
ずっと、と笑む金髪は、最高に愛しいと思う。
急にこんなことを言い出すなんて、何かあったとした思えないが、シカマルは話す気がないらしいので
問いただすことはしないでおこうとナルトは瞼を閉じた。
あなたが望んでくれるなら
あなたが笑ってくれるなら
自分はずっとあなたの隣にいよう
モドル