繋いでいるのは<2>
「はぁ・・・」
夕闇に覆われた商店街を、ナルトはひとつ大きく溜め息を漏らして帰路についていた。
(今年はどう言い訳しましょうか・・・)
ナルトの思考を沈める元凶は、数週間後に迫った中忍試験だ。
ナルトも今年で16歳となり、同期の中間達はすでに中忍、上忍になっている。
初めの何年かは修行だと言って里外に出てやり過ごしていたが、そろそろ表向きの断る理由も尽きてきた。
腹に九尾を封じるナルトは、力のない無害な子供を演じてきたが、シカマルと会ってから少しずつ
素の自分を滲ませて生活するようになっていた。
そうするように仕向け、アドバイスをしたのはシカマルだ。
時間をかけてゆっくりと、力は出せずとも素のままを出せる環境を作り上げるため。
少しでも、心の負担を軽くしてやるために。
昔のように、火影になるのだと太陽のように笑うことも、任務に文句をつけることもない。
彼のイメージカラーであったオレンジも、いつの間にやら黒になってしまって静かに笑うさまはまるで月のよう。
じわじわと浸透させていった素の自分、いまだにだってばよは使っているものの、
あれだけ里を賑わしていた金髪は、今はすっかりおとなしく態を潜めていた。
さすがに16歳にもなって下忍のままでいられるはずもない。
しかし年々、レベルの上がる中忍試験に上手く手抜きができる自信もなく。
かと言って落ちこぼれが中忍になどなってしまったら、九尾の封が弱まったかと危惧して
上層部もさすがに極刑か投獄、監禁、運が悪ければ人体実験の材料にされる可能性も出てくる。
嗚呼、なんて煩わしい
暗い気持ちの声を発して、ナルトははっと顔を上げた。
今の自分の淀んだ表情を想像して吐き気がした。
(なんてことを・・・)
煩わしいなどと思うなんて、自分はどれほど傲慢になっていたのだろうか。
「ああ、ほんとに、どうしましょうか・・・」
考えるべきは中忍試験不参加の理由。
「ナルトー」
良い考えが浮かばず、とぼとぼと歩くナルトを、のほほんとしたゆとりのある声が止めた。
「チョウジ・・・」
後ろから大きな荷物を抱えて手を振る友人に、同じように手を振り返す。
「おっきな荷物持ってどこに行くんだってばー?」
丁寧に風呂敷で包まれた荷物からは、良く知った仄かに甘い清涼な香りがした。
「・・・桃」
「そうだよー、よくわかったね」
ほら、と包みを捲って中身を見せると紅く色づいた桃が籠いっぱいに入っている。
「たくさんもらったからシカマルの家に、おすそ分けに行く所なんだ。
あ、もちろんナルトの分もあるからね、明日持って行こうと思ってたんだ」
にこりと笑って、良い匂いだよね、と朗らかに笑い歩む友人。
明日は久々に10班のメンバーで任務が入っていたのを思い出す。
ちょうど良いと、持って来てくれるつもりだったのだろう。
こうやって一緒に歩くのも久しぶりだ。
表向き、自分は下忍であるため、当時の仲間と一緒の任務に就くことも随分減ってしまった。
こういう穏やかな時間は大切だとひしひしと感じる。
歩き出そうとしてチョウジが思いついたように振り返った。
「そうだ、まだ家も近いし今渡してあげるよ!ナルト、悪いけどこれ持ってシカマルの家に
先に行っててよ、すぐ追いつくからさ」
「へっ・・・」
「どうせ暇でしょ?お使い頼まれてよ」
「良いけど・・・」
急な申し出にうろたえながらも荷物を受け取る。
「最近会ってないでしょ?」
「・・・っ・・」
口実だよ、と笑って走り去ってしまった友人の気遣いに呆然と立ち尽くしてしまった。
「・・・敵いませんね」
呟いて、苦笑した。
のんびりとしているくせに、昔から心情を読み取るのが非常に上手い。
もしかしたら素の自分さえ、彼は気付いているのではないだろうかと思うほど。
確かに最近は暗部の任務で忙しく、シカマルはと言えば解部に篭る日々が続いていて会っていなかった。
(家にいると、良いのですが・・・)
ささやかな期待を胸に桃を抱えて、恋人の家へと歩き出す。
見慣れた門構えが視界に入る。
玄関の戸を叩こうと荷物を片手に抱え直して、空いた手を戸に当てようとしたとき、ガラリと戸が開いた。
気配がなかったので、僅かに驚く。
いつも出迎えてくれるヨシノはナルトの対して気配を消すなどしない。
それはシカマルもシカクにも言えることだった。
自分に警戒心を解いてくれている奈良家の人々は、そんなことしない。
引いた戸の奥から現れた人影に、うわっと大袈裟に驚くフリをした。
すると嘲笑を滲ませた笑い声が重なる。
「ははは!こいつ、気付かねえなんて、本当に忍かよ!!」
「や、この年にもなっていつまでも下忍に甘んじてるんだし、こんな程度だろうよ」
そこには長身の青年が2人立って、ナルトを覗き込んで笑っていた。
2人は双子なのだろう、姿形はまるで同じで、違うところと言えば髪が短いか肩口で括った長髪かだ。
黒髪の彼らは、どことなくシカマルに容姿だけは似ている気がする。
(親戚、の方・・・でしょう、か・・・)
でも、シカマル、は・・・
こんな笑い方はしない。
彼と似た顔で、そんなふうに、
笑うな
胸の奥底で、じりじりと焦げ付くような苛立ちを実感して、思わず表情に出してしまいそうになって堪える。
表のナルトらしく、ただ戸惑いだけを乗せて、何だってば?と視線を泳がせ、
思い出したように頼まれていたお使いの桃の積まれた籠を差し出す。
「兄ちゃんたち、シカマルの親戚だってば?これ、チョウジから頼まれて・・・ヨシノママ、呼んで欲しいってば!」
嫌味が通じていないことに眉を顰められ、乱雑に荷物を引っ手繰ると玄関の棚に放った。
チョウジの名前を出したお陰で、桃を踏み潰されるなどの暴挙には出られなかったことに安堵する。
「なんか獣臭いわねぇ」
突如、響いた女性の声。
廊下の奥からキリリと顔立ちの女性が顔を出した。
年はヨシノより少し上くらいだろうか、顔つきからして目の前の青年達の母親だろうと推測する。
「さっさと追い出してちょうだい」
汚らわしい、と目を細め、持っていた扇で口元を隠す仕草はナルトの心を抉った。
それは、今この場所が、数少ない自分を受け入れてくれた場所であることが大いに関係しているのだろう。
半ば放心していたナルトのからだを引き摺るようにして青年達は家から出し、一番近くにあった
人気のない演習場まで連れ出した。
途中、放せと叫んでもがいたが、表で出して良い力は制限があり振り解けない。
おそらく彼らは中忍乃至上忍クラスだろうと思われた。
演習場についた途端、腹に蹴りを入れられ、強かにフェンスで背を打った。
「お前、シカマルと付き合ってるんだって?」
短髪の青年が蔑んだ口調で吐き捨てた。
シカマルの名に、ぴくりとナルトが僅かに反応する。
「何でお前みたいな万年下忍のガキに惚れ込んでいるんだか」
長髪の青年も同じ声でナルト目掛けて、腰のホルスターからクナイを数本放つ。
下忍のスピードでは全て避けることはできず、こめかみを深く切った。
ぼたぼたと溢れる血は、九尾の治癒力のお陰ですぐに止まり、傷口を塞いでいく。
「は、化け物が」
「・・・っ・・・」
久々に聞いた、懐かしい言葉に忘れかけていた心の古傷がぱっくりと開いた。
どれほど自分の周りの環境が甘いものになっていたのかが知れる。
シカマルも、自分の知らないところで上層部に何かしているようだとイルカから聞いたことがある。
近頃、ナルトを狐呼ばわりする人間も、昔と比べれば驚くほど減ったし仲間もできた。
この痛みを、忘れてしまうほどに穏やかな時間を貪っていたのだと気付く。
「お前馬鹿だから知らねぇかもしれないが、奈良家と言えば里の中でも有名な名家なんだぞ?」
「ぐっ・・・」
短髪がナルトの首に手をかけ持ち上げる、自分の重みで首が絞まり頬が紅く染まっていく。
「気に入らねぇけど、シカマルは奈良家本家の跡継ぎだ」
「ふっ・・・!?」
首を掴む手のひらから影が伸び、鋭くなった先でナルトのからだを傷つけていく。
「お前ごとき一介の下忍が、ましてや狐憑きの忌み子が近付いて良いもんじゃあねーんだよ!!」
ぐしゅう、と至る箇所から血が噴出す。
倒れたナルトの周囲は小さな紅い池ができた。
「化け物のくせに血は紅いんだなぁ?」
短髪は、自身が血で汚れぬように、噴出す瞬間、地を蹴り間を取った。
(一介の、下忍・・・)
遠いところで、冷たい笑い声を聞いた。
笑い声は、しだいに近付いて来る。
(それは、もし、俺が、)
下忍でなければ、少しは。
ぼんやりと、近付いて来る足を捉えた。
見上げれば、彼らは醜悪な笑顔で得物を振りかざし。
あなたの傍にいても、
「良い、ですか」
2つの刃が、ぎらりと光を放った。
「ただい・・・」
家に着いたことを示す挨拶は、見慣れぬ女性物の履物を発見して途中で切れた。
瞬時に気配を消そうとしたが、廊下の奥から顔を見せた女性と、後ろで苦い顔をしている両親に見つかり諦めて肩を落とす。
「久しいわねぇ、シカマル」
唇を弓なりに弧を描き、扇をぱたりと閉じる女性に、シカマルは仏頂面を隠そうともしない。
「・・・お久しぶりで、伯母上」
シカクの親戚で、自分との血縁はかなり薄いが、やたらと世話を焼いてくこの伯母は苦手であった。
ついこの前、大量に見合い写真を送ってきたのもこの女性だ。
正直、いつも値踏みするような視線を送るこの伯母は嫌いだ。
九尾を憎んでいることも気に入らない理由のひとつだが、自分の息子が跡取りになれなかったのが悔しいのだろう、
陰湿なやり口で何かと辛辣な言葉を投げてくることもしばしばあった。
今日もきっと見合い写真を送りつけてから反応も返答もなかったので、自ら出向いて来たのは聞かずともわかる。
(ナル、は来てないか・・・)
気配を探り、ほ、と息をつく。
この人物には一生会わせたくはない。
「・・・」
しかし、ざわりと揺れる胸の奥。
知らずに服をぎゅうと握り締めた。
何か、嫌な予感がする。
(まさか、)
「・・・そう言えば、ご自慢のご子息達の姿が見られませんが?」
いつも傍に侍らせている双子の姿が見えず、ナルトの気配を探ったときに気付いた違和感に不安感が募る。
怒りが表情に出ていたのか、伯母は顔を引き攣らせた。
しかし彼女も気丈な性質で、それでもしゃんと背を伸ばしシカマルに対峙する。
「さあ、あの子らももう子供ではない故、私は知りません」
「・・・ほぉ、いつもべったりくっついていた甘ちゃん達も大人になられましたね」
バチリと散った火花はたいそう恐ろしかった、と後で奈良夫婦は語り合ったと言う。
「こんにちはー」
のほほんと、その場にそぐわない朗らかな声が火花をおさめた。
「あ、あらぁ、こんにちは」
はっと我に返ったヨシノが伯母とシカマルを避けて玄関先に向かう。
立っていたのは、大きな籠に桃を詰めたチョウジだ。
「あ、おばさん久しぶり」
にこりと笑って、きょろりと辺りの気配を探ると不思議そうな表情をした。
「おばさん、ナルトは?」
「え?ナルちゃん?今日は、来てないけど?」
チョウジの言葉にシカマルの悪い予感はどんどん膨らんでいく。
「チョウジ、どういうことだ?」
焦ったような、怒っているようなシカマルの態度にチョウジはたじろぐ。
「え、と・・・コレ、桃たくさんもらったからシカマルん家におすそ分けに行こうと思って、
そしたらさっきナルトに会ったからお願いしたんだ。ナルトにも渡そうと思ってたから僕ナルトの分を取りに帰ったんだよ」
ちらりと送られた視線に、自分とナルトに気を遣ったことを知る。
「でも、うちには来てねぇぞ?」
シカクが困ったように腕を組んだ。
「え・・・来たでしょ?だってそこに、」
チョウジの指差す先に、彼の抱える籠よりひとまわり大きい籠が、甘い香りを漂わせていた。
「いつの間に・・・」
置いて帰っちゃったのかしら?とりあえずチョウジにありがとうと礼を告げるヨシノの横で、シカマルは表情を固くした。
「伯母上」
鋭い視線に射抜かれ、思わず息を呑む。
暗部で培った殺気を乗せると、じとりと脂汗が滲んだ。
「ご子息達は、どちらに・・・?」
声を荒げるよりも恐ろしい静かな問いは、今は恐怖を煽るだけだ。
「知ら・・・」
「どちらに?」
言葉を遮るシカマルの声に温度はなく、両親であるシカクやヨシノさえ僅かに動くことさえできなかった。
ガシャンと出口のフェンスが揺れた。
「ナル!!」
伯母から事情を聞き出し、全力でここまで走って来た。
運が良いことに、ナルトは気配を消し去ってはおらず、すぐに見つけられた。
視線の先には漆黒の衣を纏った恋人が立っており、彼も気付いてゆっくりとこちらに振り向いた。
「っ・・・ナ、ル・・・」
振り向いた顔は真っ赤で、輝く金髪は今は赤黒く染まっている。
血で張り付いた服は、至るところがすっぱりと破れており、何よりナルトの足元は夥しい量の血液が池を作っていた。
池の近くには、見知った親戚が2人崩れ落ちていたが、シカマルはそちらには一瞥を送っただけで真っ直ぐにナルトの元へ駆け寄った。
微かに息はしているようだったので、生きてはいるのだろうと、さして興味もない事柄は瞬時に頭から抜けてしまった。
「大丈夫か!?悪い、あいつらが・・・」
ぼんやりと虚ろな表情をするナルトの頬を両手で挟んで、血を拭う。
傷口はすっかり塞がっているようで、破れた服からのぞいた肌は、今はただ紅で汚れているだけのようだが
いつものごとく彼は暴行を受け入れてしまったのだという事実が悲しい。
しかし今回は最後まで暴行されっぱなし、という訳でもなかったようだ。
現に双子は倒れているし、ナルトは傷だらけではあるが立っている。
「痛かったろ・・・ナル?」
ぎゅうと抱きしめて、自分が血に汚れることも厭わず髪を梳く。
何も喋らないナルトに違和感を感じて僅かにからだを離すと、きゅっと今まで動かなかった彼の両手が自分の背を掴んだ。
「し、か・・・」
小さく漏れた言葉を拾い上げて、なんだ?と優しく笑んでやる。
「ねぇ、俺、せめて・・・強いって、わかってもらえれば・・・」
不安気に揺れる蒼から流れる涙が頬についた血を洗い流していく。
「あなたの傍に、いられる?」
ナルトの言葉にシカマルの目が見開かれる。
今まで自分の力を誇示しようとはせず、いつも受身でひっそりと里を支え続けていた子供が見せた小さな主張に驚きは隠せない。
別に強くたって弱くたって、狐を腹に抱えていたって、そんなの自分は全く気にしない。
ただ自分がこの金髪を愛してやまないだけなのだから。
しかしナルトは違う。
シカマルのように気持ちのままに行動を取ることをしない。
小さな頃から、どれほどの我慢を強いられてきたか知れない。
大方、双子に何か言われたのだろうが、明るい日差しの下で生きさせてやりたいと思っていたシカマルにとっては、このうえなく都合が良い流れだ。
ナルトに見られないように頭を胸に抱え込んで口端を上げる。
「ああ、いられる」
上層部も粗方片付いてきたし、そろそろ良い頃合いだと思っていた。
この愛しい金髪を明るい陽の中に解き放ってやるための準備は着々と仕上がっていたのだ。
同期に名家や旧家が多くて良かったと感謝もしている、ナルトを良く知る彼らは大きな味方となっている。
あとはナルト自身の気持ちが問題であったのだが、それももう問題ない。
精神が弱っているところにつけ込んでいることも理解している、しかしどうせ自分はこういう奴なのだと開き直って、
結局ナルトのためになるのだと結論づければ、あとは時間の流れるままに事は進む。
「見せつけてやればいいさ」
お前の強さも美しさも。
そうしたら、こんなふうに無駄に傷つく必要もないのだ。
「けどお前は俺のだからな」
シカマルの顔をきょとんと見上げ、
「そんな当たり前のこと」
どうしてわざわざ言葉にするの?そう首を傾げるナルトにシカマルは盛大に笑った。
「くくっそうだな・・・お前は俺のだ。でも俺だってお前のなんだぜ?」
「それは・・・」
違う、と蒼を伏せるナルトの頬を挟んで上向かせ笑う。
「じゃあ次の中忍試験で合格したら、ご褒美に俺をやるよ」
ほんとう?と見上げた蒼は、きらきらと輝いて、それはそれは綺麗だった。
おかしなスイッチが入っているのか、ナルトは話の流れや自分の言葉におかしいとは思ってはいないようだ。
「ああ、約束だ」
熱に浮かれたような状態のナルトには多少の罪悪感は残るが、記憶力の良い彼はきっと正気に戻っても約束を忘れたりはしないのだろう。
約束の証だと笑って、そっと口付けると、安心したのかナルトのからだから力が抜けていった。
傷は治っても血が圧倒的に足りないのだろう、白い頬を撫ぜて、寝てろと優しく囁けばとろとろと瞼が下がった。
すっかり力の抜けたからだを抱き上げて、壊れ物を扱うような絶妙な力加減で抱きしめる。
胸に擦り寄る金髪は可愛くて、あとで双子と伯母からの仕打ちのお詫びに思い切り甘やかしてやろうと思う。
「ああ、忘れてた」
倒れている双子を見下ろし、冷たい視線を投げる。
2人はたいした外傷もなく、おそらく気を失わされただけなのだろう。
辺りの夥しいほどの血は全てナルトのものなのだ。
「・・・割に合わねぇよなぁ・・・?」
黒い冷笑をひとつ落として、シカマルは自身の影を伸ばすと、それは双子をすっぽりと包んだ。
「良い夢見な」
ナルトには羽のような口付けを、双子には冷たい視線を残し、シカマルは瞬身で消えた。
あとにした演習場からは耳を覆いたくなるような断末魔が聞こえたとか聞こえなかったとか。
************おまけ*************
真夜中、目の醒めたナルトの目の前にはどこか機嫌の良い恋人の姿。
「し、か?」
「うん」
にこにこと目を細めるシカマルに、どうしてそんなに笑顔なのかを何故か聞いてはいけない気がした。
見渡せば、シカマルのラボ兼本宅としている死の森の奥の我が家にある寝室。
確か自分はチョウジに頼まれて桃を届けに行って・・・。
記憶を辿って、がばりと身を起こす。
「しっしか!俺、何か、すごい、ことをっ・・・!!」
言ってしまったと、思う、いや、言ってしまった記憶があるのが悲しい。
「うん」
しかしシカマルはただ笑っている。
「あ、あの、俺っ・・・ちょっと、自分の言っていたことに、責任を持たずに、つい・・・」
「うん、約束」
ぴしりと固まったナルトに、頬杖をついて笑顔のまま眺めるシカマル。
「約束は、守らないとな」
「・・・・・・・・・」
既にシカマルの笑顔に気圧されて、ナルトの負けは確実であった。
少しばかり困ったように視線を送ってみるが、飄々と受け流すシカマルに諦めの溜め息をひとつ小さく漏らす。
「・・・良い、のでしょうか・・・」
何が、とは聞かない。
それぐらい伝わるくらいには、一緒にいたのだ。
「良いさ。お前はもっと幸せになって良い。俺の自慢なんだから、強いところ見せてやれよ」
「・・・はい」
ふわりと笑う恋人をシカマルは抱きしめる。
こんな日のために、この金髪が楽に暮らせる舞台を着々と用意していたのだ。
例えナルトの強さが九尾の暴走と捉えられようとも、それを押さえ込めるだけの戦力と権力を手に入れてあるのだ。
「中忍試験楽しみだなー」
「・・・俺は緊張します・・・」
本当の自分を晒すことになるのだ。
自分の胸にすり寄るナルトの髪を撫ぜつつ、大丈夫だと言葉を落とせば、それだけでふにゃりと笑う金髪が愛しい。
「まあ、リボンつけて待っててやるよ」
ナルトがひとしきり笑って、ふと見上げてくる。
「頑張ります」
静かな笑顔は、高く上った月よりも美しい。
モドル