あなたに会える
そう思うだけで
嬉しくて
不安で
・・・不安で・・・
君を護る<4>
娘の気配を感じて庭先で帰りを待っていたナルトはびくりと肩を震わせた。
(・・・しいなだけじゃない・・・)
そして見知った気配が複数あるのに驚く。
まさか娘とかつての仲間達が先に接触してしまうとは・・・。
自分に気付いているのがシカマルだけだと言うなら、しいなには火影の命だとでもごまかして
変化した姿でも良いかと思った。
チャクラの質を変えても匂いを変えてもしいながおかしいと感じてしまう。
これ以上のごまかしは許さない、とでも言われているかのようだ。
娘がシカマルよりは自分と容姿が近い認識はある。
シカマルだけではなく皆自分のことに気付いたかもしれない。
「・・・っ・・・」
急に足元がおぼつか無くなって垣根に背が当たった。
「・・っ・・はは・・・」
膝が笑っている。
人を殺しても里人に暴力を受けてもこれほど恐怖を感じたことはない。
怖い
怖いの
あなたに会うのが
皆に会うのが
「・・なんて・・勝手な・・・」
自嘲の笑みが漏れる。
自分が勝手に起こした行動で何と愚かな・・・。
全て自分の蒔いた種。
たとえ非難されても蔑まれても何をされても、自分にはそれを甘受する責任があるというのに。
小さく震える膝を持ち直して。
今も近付く懐かしい気配を待った。
「かあさまー」
嬉しそうに赤丸の上で両手を振る子供を皆微笑ましく見つめる。
子供の目線の先にはさきほどミニチュアのように見えていた瓦屋根の家の庭先に
人影が見えた。
近付くにつれて姿がはっきりとしてくる。
「・・・ねえ・・!」
「・・・う、ん・・」
サクラとイノが顔も合わさずに、しかし言いたいことはわかる、と互いの服の袖を引っ張る。
キバも、覚えのある匂いを流れる風に見つけて目を見開く。
「そんな・・・」
チョウジなど抱えていた菓子を地面に落とした。
動揺する仲間の中でひとり、シカマルだけが歩みを止めず、弾むように駆け寄る子供の後を追う。
子供を抱きとめた女性は、陽を受けてきらめく長い金髪、白い肌、蒼い目、頬の痣は見当たらないが
何よりあの顔つきには覚えがあった。
「・・・ナルト・・・・・?」
誰が呟いたのだったか、その声を合図に皆走り寄った。
「ただいま帰りました、かあさま!!途中で式に書いてあった方達にお会いしましたので
しいながご案内したのですわ」
ぴょんぴょん兎のように跳ねて、珍しい客人達を楽しそうに紹介する。
「ありがとう、しいな。・・・先に入ってお茶の用意をしてくれるかしら?」
ハイ!と軍人のように敬礼して笑うしいな。
そんな娘の頭を撫ぜて、こちらへ歩いて来る影を見つめる。
(シカ・・・マル・・・・・)
随分と背が伸びた
顔つきも精悍になった
何より、
今でも愛しいと思ってしまう。
それを罪悪と感じるのは、自分に後ろめたいことがあるからだ。
彼らを、騙しているという罪悪。
シカマルが、腕を伸ばせば届くところまで来た。
「・・・久しぶりだな」
「・・はい・・・」
見つめる漆黒の目は、昔のままだと気付いて腹の奥が熱くなる。
どこかほっとしたような表情に胸が痛んだ。
傍で見れば、目の下には隈ができており、疲れた感じがする。
それほどまでに、自分を捜してくれていたのだろうか。
伸ばされた腕に一瞬驚いて肩が震えたが、温度を持った手のひらを頬に当てられて、
自分でも驚くほどに安堵した。
ただ心臓だけは早鐘を打っていたが。
良いのだろうか、と目線を彷徨わせ、それでもそっと手のひらに頬を摺り寄せる。
その行為にシカマルの手の方が微かに震えた気がして、厚かましかっただろうかと慌てて
離れると同時にぎゅうと抱き込まれた。
「ナル・・・っ」
「ん・・・」
強く抱きしめられ、息がまともに吸えずに苦しげな声が漏れる。
「シ、カ・・・」
少し緩めてもらおうと、必死で名前を声に乗せるが、それが余計に腕の力を強めてしまい
不思議そうにシカマルを見つめる。
「ナルト、なの・・・?」
震えた声を、シカマルの肩越しに聞いて、首をそちらへ向けると。
かつて同じ班であった桜色の髪をした少女が、親友の白金色の髪の少女と共に凝視していた。
その奥で以前よりからだの大きくなったチョウジと、大きな忍犬とその主人もこちらをぽかんと見ていた。
「サクラちゃん・・・」
そう応えれば、目が落ちそうなくらい見開いて、シカマルを押しのけて抱きついてきた少女を
抱きとめておそるおそる顔を上げる。
4年会わない間に、自分の背を越してしまったサクラは目から大粒の涙をぼろぼろこぼして。
「やっぱり、ナルトだ・・・!」
自分を“サクラちゃん”と呼ぶのは、ヒナタとあんただけなんだから、と抱き締められて。
「ちょっとー!あんた女だった訳?」
すっかり存在を忘れられていたイノが負けじと抱きつき、後ろから胸を鷲掴みする。
「ひぁっ」
意外なイノの行動に間の抜けた嬌声があがり、こら、とイノがシカマルに剥がされる。
「ほんとにお前なのかよー!?」
やっと状況が飲み込めてきたキバが赤丸と共に近寄って来た。
「キレイになったねー」
その横でのほほんと賞賛を送るチョウジは案外大物かもしれないな、とその場の皆が思った。
「すみません・・・」
「そうよ!私達皆あんたが死んだって聞かされてたんだから・・・!」
「サクラ」
涙で濡れた顔をナルトの胸に擦り付けて泣くサクラを、シカマルが宥め。
「話してくれるよな・・・?」
それはもう肯定することが前提の、凛とした声で。
ナルトは静かに頷いた。
モドル