「大当たーりぃー!!!」


からんからんとでっかいベルを鳴らして法被を着たおっさんがそう言った。






温泉へ行こう【1】







「どうすっかな・・・?」
ひらひらと紙切れを2枚揺らしてシカマルは呟いた。

買出しを頼まれ、ちょうど抽選会をやっているのだと店の主人から福引券をもらって。
主婦で賑わっていた抽選会場には、木の葉商店街秋の味覚祭☆とポップな色調で描かれた
ポスターがそこいら中に貼られていて、なんだか落ちつかない心持ちで列に並ぶ。
少し離れた所に、運が良ければ当たるのであろう賞品が簡易な机に積まれていた。
(あ、米とか良いな・・・)
母が喜ぶだろうな、と思いつつ自分の番が回ってきて。
手作り感満載の紙で出来た箱の穴に手を突っ込み一番真上にあった三角形の紙切れをひとつ取り出し
係りの者に手渡すと、慌てたように走り去り、どこからかでっかいベルを持って来て。
「大当たーりぃー!!!特賞だよ!!!」
「やった。米ですか?」
いやいや、と笑顔で手渡された紙切れが2枚。
何だコレ?と顔にでかでかと描かれた自分に、
「二泊三日木の葉温泉旅行ペアでご招待!結構値の張る老舗旅館だよ」
「・・・・・・」


・・温泉か。
良いな。
行きたいな。

ナルと・・・・・。


「・・・無理だろうな、忙しいやつだし」
日帰りならともかく二泊三日ともなれば、都合はつかないだろう。


「ということで、コレあげる」
帰宅するなり変化を解いて女の姿に戻ると、開口一番そう言った。
「あら〜良いじゃない!温泉?」
きゃあ、と目を輝かせてはしゃぐ母親に苦笑して。
「父さん引きずって行って来たら?」

「どこかに行かれるんです?」
突然現れた気配に心臓が跳ねる。
「ナル・・・来てたのか」
にこりと笑った金髪に驚く。
両親にも彼が暗部に所属しておりシカマルと付き合っていることを話してあるため、口調も素のまま。
「任務帰りにシカクに会って、そのまま・・・」
まだ夕方だと言うのに紅い顔してけらけらと飲んだくれる猪鹿蝶がナルトの後ろに見え溜め息をつく。
大方、無理矢理連行されたのだろう。
「悪かったな、うちの馬鹿親父達が・・・」
いえそんな、と笑うナルトは可愛い。
胸の奥がほわほわする。
そんなシカマルの姿を微笑ましく見つめていたヨシノは名案だとばかりに顔を輝かせた。
「ナルちゃん、温泉好き?」
突如、温泉の話を持ちかけるヨシノにきょとんとしながら、
「行ったことないのでわからないですね・・・」
「あら!じゃあコレ、2人で行ってらっしゃいな」
コレと指差し渡した券を突き出す。
「母さん、ナルは忙しいから3日もかかる旅行なんてできねぇっての」
だから渋々ながらにもあげたのに。
「だってあんた達、その忙しさ故にデートもまともにしてないじゃない〜。駄目よ、若いうちにちゃんとしとかなきゃ」
何をだ、と顔を紅くするシカマルを不思議そうに見つめるナルトの視線が気になる。
大体、いくら親公認とは言え年頃の娘に二泊三日の外泊を勧めると言うのはどうなのか。
「ナルちゃん、三日くらいお休み取れないの?」
うーんと考え始めたナルトがちらりとシカマルに視線を投げる。

三日は難しい・・・でもシカは行きたそうな感じですし・・・そうだ、三日分の任務を前倒しで
こなしておけば行けるかも。

まあこんなことを考えているのだろう。

ナルトの思考なんて簡単に読める。
きっと無理をして時間を作るであろうナルトに密かに息をつく。
こうなることがわかっていたから諦めたのに。
無理をして怪我でもしたらどうするんだ。

案の定、シカマルの不安をよそに、なんとかなるかもしれませんとナルトは告げてしまった。

シカマルの表情は曇ったが、それも一瞬だけ。

(ん?てことは・・・)

初旅行!?

手をつないで温泉街を練り歩きお土産を見て一緒の部屋で普段は出ない豪勢な食事に温泉。
三日間ずっと一緒、隣を見ればナルがいる?

(いかん・・・顔が緩む・・・)

ナルトには背を向けつつ、にやけそうになる顔を手のひらで必死に伸ばす。
「・・・シカ?」
怪しい動作をするシカマルを不思議そうに見るナルトに、何でもない、と手を振って。
「ナルは・・・嫌じゃねぇの・・?」
「とんでもない。楽しみですよ?」
とても、と慈しむように笑うナルトが愛しい。
自分だけが浮かれているようで、気恥ずかしい気がして少し俯くと優しく頬を撫ぜてくれた。

それから一週間、ナルトと会っても影分身ばかり。
本体は忙しく任務を片付けているのだろう。
(・・・無理、させちゃったな・・・)
それでなくともナルトは自分のからだを酷使すると言うのに。
それでも考えると心が浮き立つ。

はやく、はやくその日になれば良い
晴れると良いな
暖かいと良いな
せっかくだから本来の姿のままで
手を繋いで行きたい


とりあえず、神頼みでもしてみるかと照る照る坊主を作って窓辺に吊り下げた。















モドル