「なーこれ白く濁ってるけど何が入ってるんだと思う?」
「さあ・・・俺にはわかりません・・・」
「すっかり秋だなー。あの紅葉なんて真っ赤」
「・・そうですね・・・」
「嘘だよ、お前見てねーだろ」
「・・・・・・・」
温泉へ行こう【3】
「いい加減、目開けたら?」
「無理です」
「お湯、濁ってるから見えないぜ?」
「・・・無理」
はあ。
何を言っても頑なな態度を崩さないナルトにシカマルは溜め息が漏れた。
「せっかく2人きりなのに・・・」
つまんねー、と口を尖らせてみてもナルトは一向に目を閉じたままこちらを向かない。
それが単なる意地悪ではなくて、ただ照れているだけなのだと言うことは、耳まで染まった朱でわかるが。
「・・・寂しい・・・」
「えっ・・・?」
ぽそりと呟いた言葉に、思いがけずナルトが目を開けてこちらを振り向いた。
そしてさっきよりも紅く染まる肌にすかさず引っ付いてにやりと笑った。
「やっと見たな」
やられた、と苦い顔をして、しかしそれ以上は目を閉じることを止めたらしい。
それでもあまりこちらを見ようとはしないが、濁り湯の中で触れた指をきっかけに繋いでくれた。
それに嬉しくなって笑うと、ナルトも気が抜けたのか肩の力を抜いた。
「昔はよくお色気の術〜とかやってたくせに何が恥ずかしいんだ?」
「それとこれとは別問題なんです」
そうか?どう違うんだ?と首を傾げると、伸びた髪が肌を滑って湯に落ちた。
「・・・伸びましたね」
「ん?ああ、そうだな・・・て、お前も少し伸びたんじゃね?伸ばすのか?」
すっかり変化を解いて輝く金髪は肩まで伸びており、いつもは跳ねるくせっ毛が蒸気でしっとりと落ち着いていた。
「いえ、そうですね・・・そろそろ切りましょうかね」
「ふぅん・・・いっつもどこで切ってんだ?」
「?どこって・・・えと、自分でクナイでこう・・・」
クナイと言ったか?
指で横に切る仕草をしてシカマルが呆れた顔でナルトを見た。
「お前なぁ・・・仕方ねーなー」
そして私が切ってやる、と至極嬉しそうな顔で。
ゆるゆると穏やかな時間が流れ、気付けばいつも通りの会話を交わしていた。
「なあ」
僅かに首を傾げて、湯に上気した頬に思わず手が伸びそうになった自分に驚いた。
(・・・何を)
しようと思ったのだろう・・・?
特に変化のない様子に、戸惑いは伝わらなかったようでナルトはこっそり息を吐いた。
「何ですか?」
「・・・キスしていー?」
「・・・・・・え・・・?」
言葉の意味を理解するのに数秒。
ぽかんと開いた口を塞ぐように、ちゅ、と軽く音をたててシカマルのそれが合わさる。
ぱしゃりと小さな水面の揺れが、何故か耳にひどく響いた。
「ごちそさま」
顔を朱に染めてぱくぱくと口を開けるナルトに見せ付けるようにぺろりと唇を舐める。
赤い舌に目が離せない。
ぞくりと心地良い感触が背を走った。
先ほど伸ばしそうになった手が同じように空を切って。
・・・触れたい
そう認識して、してしまったことにざあっと血の気が引いた。
(何を・・・)
考えているのだ・・・?
自分のような者が、
触れたいなどと思うなんて
なんと、
・・・おこがましい
そんな気持ちを振り払うように水音を立てて立ち上がり、先にあがりますと伝えて後にする。
上ずった声に気付いただろうが、今はとにかく距離を取りたい。
足早に風呂場を去るナルトの背を少々つまらなさそうに見つめながらシカマルはひとつ溜め息。
ちぇ、と小さく呟いて。
「触ってくれれば良いのに・・・」
あわよくば、
今の呟きが、風に乗って彼の耳に入れば良い
モドル