触れたい
もっともっと近付いて
いっそ溶け合えたなら
どれほど
温泉へ行こう【4】
湯で火照ったからだを秋風が癒すように窓から流れて来た。
用意されていた浴衣にするりと腕を通して、目に入ったドライヤーは無視して風遁で髪を揺るがし
脱衣所を後にした。
(顔の熱が・・・)
下がらない。
生娘のような反応だと笑われそうだが、いまだ大きな鼓動を落ち着ける術を知らない。
無意識に、唇を指で触れていることに気付いて慌てて放す。
嬉しかった。
肌の触れ合いも言葉のやりとりもたまたま交わした視線であっても。
全てが嬉しくて愛しくて仕方ない。
彼女の好意だって理解しているつもりだし自分だって同じ気持ちを持っていると言うのに。
恨めしいのは自分の背負った運命。
自分と関わっていても損ばかりだとわかっている道に彼女を巻き込んでしまうことが辛いのだ。
名家の娘でもある彼女なら、良い縁談だってその内に舞い込むのであろう。
優しい彼女と両親に甘え過ぎなのは否めない事実だ。
いつかは、自分の元を去る未来だってあると言うことを心構えておかなければならないのだ。
(だから・・・)
決して一線は越えない。
ごろりと手足を投げ出して寝転がる。
まだ新しいのだろうか、畳の匂いが鼻を擽った。
ふと何かが手に触れたので引き寄せてみると、彼女の羽織って来た外套。
無造作に放られていたらしい。
ハンガーにでもかけておいてあげようと立ち上がろうとして気付く彼女の匂い。
(シカの匂いがする・・・)
特別な香水をつけている訳でもないのに香るほのかなひとの匂いに目を閉じる。
(何か・・・)
安心する。
いつの間にかそのまま寝入ってしまった。
「ナルー?」
いやに静かな部屋に違和感を抱きつつ目当ての人物を捜す。
「ナ・・・」
ふと見ると、自分の外套を抱きしめたまま眠るナルトを発見。
(何やってんだ・・・?)
子供のような仕草に口元が緩んだ。
自分がここまで近寄ったのにも関わらず今も夢の中のナルトに、ナルトが着て来た方の外套をかけてやった。
その感触に身じろぎして、抱えていたシカマルの外套を更に抱き寄せる仕草が嬉しかった反面悔しくもあった。
自分の上着に嫉妬する日が来ようとは。
「疲れてるよな、やっぱ・・・」
この旅行のために無理して前倒しで任務をこなしていたらしいから。
いつもならこの距離で気付く。
夕飯は少し遅くしてもらおうと仲居を呼びとめ、こちらから連絡するまで料理は良いとことわって。
寝ているナルトを起こさないように、しかし離れるのは嫌でぴたりと背中を包むように寄り添って。
畳に落ちた金髪に唇を寄せた。
ゆるく着込まれた浴衣から白い項が覗いて悪戯心が芽生えてしまうのは、魅力あるお前が悪いと
納得してそっと首筋を舐めあげた。
「ん・・・」
漏れた声に高揚して、後ろから腕を回して肌蹴た胸元を撫であげると小さく息が漏れる。
(何か・・・愉しい、かも・・・)
そのまま浴衣を指で引っ掛け、ずるずると引き下げると白い肩が露わになると、そこにもちゅ、と口付けた。
「んっ・・・」
肩が外気にさらされ意識が浮上したナルトがゆるゆると瞼を持ち上げた。
「・・れ・・・シ、カ・・・?」
まだ寝ぼけた舌ったらずの声で、しかし肌蹴られた自分の姿を理解して、一気に頬を染めた。
「シ、カ・・・?なに・・・」
「ん、お前襲ってた」
しらっと応えたシカマルに、ぽかんと見つめる蒼は、言葉の意味をしばらく考え理解するとばっと飛び起きた。
「そのままで良かったのに」
ナルトの行動に少し不満げな声を出したシカマル。
「な、何を・・・」
「お前からしてくれないから自分からしようと思って」
焦ってどもるナルトにあけられた距離の分詰め寄って、傍から見ればシカマルがナルトを押し倒すような
格好になった。
真っ赤になった頬にちゅ、と口付けてそのまま首、胸へと唇を寄せるとその度にびくびくと跳ねるからだが
愛しくて自然笑みが漏れる。
「ちょ、待っ・・・シカ・・・!」
「いやだ。お前を待ってたら日が暮れるどころか婆になる」
そうかもしれない、と思いつつ、これ以上触れられたら綺麗に流されてしまうだろうことが恐ろしくて
何とかシカマルを押しのけた。
「駄目です」
いつもはしない厳しい目で見据えられ、少し悲しくなりながらも何故、と聞き返した。
「・・・いつか俺意外のひとを・・・」
好きになったらどうするのだ。
自分などと一緒にいつまで傍にいてくれると言うのだろう・・・?
苦しそうに歪められた蒼が泣きそうに見えた。
「そんな未来は絶対ない」
言い切るシカマルに絶対の未来などはないのだと返せば、
「お前意外を好きになんてならない」
「そんなこと・・・」
どうしてわかるのだ、と泣きそうな声が耳に残った。
「自分の気持ちと性格くらい把握してる。自分自身のことくらいわかるっての」
お前だと思ってる
目の前の金髪以上に好きになることはきっと
一生ない
「だからお前を手放せないんだ」
蒼が揺れた。
「・・・俺なんて選んだら・・・あなたを不幸にしてしまう・・・」
「おかしなこと言うんだな。お前といて不幸だと思ったことなどないのに」
「あなただけじゃなく・・・ご家族にだって・・・」
「両親とも既にお前を息子扱いして近所や知り合いの忍に言いふらしてるぜ?」
絶句したナルトを尻目にくすりと笑った。
大袈裟ではなく事実なので嘘ではない。
「私はお前に触れて欲しい。お前意外に誰も好きになんてならない。だから・・・」
責任とってもらってくれ。
そう耳元で囁けば、途端染まる紅に気を良くして。
「・・・後悔、しませんか・・・?」
見つめ返す蒼はどこまでも不安気で、しかしほんの少しの期待を滲ませていた。
「するもんか」
シカマルの応えに、泣きそうに顔が歪んで、それでも綺麗な顔に見惚れた。
「・・・触って、良いですか・・・?」
「ん、いっぱい触って・・・」
控えめなお願いに苦笑すれば、くるりと体制を入れ替えられそっと口付けられる。
ナルトから、というのは初めてだな、と少し感動しながら甘受する。
先ほど自分がしたように、首筋を辿って胸元までナルトの唇が這う。
「っ・・・」
息を詰め、ふるりとからだが快感で震えた。
「シカ・・・」
背を撫で上げられただけでぞくりとした感覚が走る。
それは歓喜さえ運んで来て。
あいしてる
ナルトの唇が小さく、しかし確かにそう言った。
モドル