夕闇静かに近付いて
翳った肌を照らすは月
見上げた夜に包まれた月が
あなたと自分のようで嬉しかったと言ったら
笑われるだろうか?
温泉へ行こう【5】
カサリと、早くに色づいた楓が風にのって窓からやって来た。
寝乱れた愛しいひとの髪の川に落ちて彩った。
それにひとつ笑みを漏らし、漆黒に紅が映えて美しいと思ったのでしばらく眺めていた。
自分の腕を枕にして気持ち良さそうに寝息を立てるシカマルに、少しためらいつつもそっと額に口付ける。
白く抜けた肌に落ちた感触に身じろいで、僅かに空いていたからだの距離を詰めて擦り寄った。
その行為に、そろそろ肌寒いのかもしれないと思って肩をゆする。
昼間まで身につけていた浴衣は傍に脱ぎ捨てられていて、2人とも今は素肌に布団を羽織っているだけ。
本当ならもう少し休ませてやりたいが、夕食も摂らせてやりたいのも本心。
旅行にまで来て食事も楽しませてやれないのはあまりにも可哀相だ。
「シカ・・・シカ、起きて」
髪を梳きながら言葉を乗せて、シカマルの覚醒をゆったりと待つ。
「ん・・・」
ゆるゆると持ち上がる瞼、まだ眠そうな目を数回瞬いてナルトを視界に入れると唇が弧を描いた。
「・・・はよ」
「おはようございます」
もう夕方も通り越し、月が空に昇り始めた時刻に交わしたあいさつに2人で笑った。
「そろそろ起きましょう」
「うー・・・うん」
ひっついた体温が気持ち良いのか、名残惜しそうに視線が揺らいで、しかしお腹のすき具合に気付いたのか
小さく頷きからだを起こし突然走った鈍い痛みに眉をひそめた。
「っ・・・」
「シカっ・・・?」
蹲ったシカマルを心配そうに顔色を窺う。
(嘘だろ・・・)
顔を真っ赤にしたり青くしたり忙しいシカマルは、どうしました?と言うナルトの問いに答えられず
ただただ蹲って痛みを逃していた。
(言えねー・・・)
ナルトを受け入れたところに走った痛みに、どうしようかと思案するが何も浮かばず。
(・・・痛くて動けない)
初めては皆こんな感じなのだろうか、と痛みで滲んだ涙を隠すように枕に顔を押し付ける。
その様子をじっと観察して、ナルトがふと思いついたように布団に潜った。
「ナル・・・?・・・っ!??」
ナルトの行動を不思議そうに眺めていたシカマルの声に焦りが滲んだ。
「ちょ、こらっ・・・何して・・・!」
暴れ始めたシカマルの足を押さえ開き、昼間に自分を受け入れた部分へと舌を伸ばすと触れた瞬間
やめろと叫んでいたシカマルが息を詰めた。
ぺろりと撫ぜるように舐め上げて、ちゅ、と布団の中で小さく響いた音に耳まで紅に染める。
「んぁっ・・・は・・・ナ、ル・・・」
痛みとは違う涙を目尻に滲ませ、始めは痺れるようだった痛みが次第に快楽に変わって行く感覚にからだが震えた。
どれほど続いたのか、すっかり息があがった頃にナルトの舌が離れた。
やや酸欠気味だったのか、頭を出して深く息を吸い込み、大丈夫ですか?と問う。
「だ、だいじょぶな・・・わけ、ないだろ・・・!」
「?まだ痛みますか?」
「え?」
ナルトの問いに、先ほどのようにからだをゆっくり起こしてみると、少しの痛みも感じなかった。
こころなしか、重かった腰も楽になっている気がする。
ぽかんと見上げると、ナルトが自身の舌を指差して、
「なんか九尾の治癒能力の一環で、俺の体液には強い治癒能力が含まれているらしいんです」
もう痛くないでしょう?と首を傾げるナルトに、確かに痛みを感じないことを確認して礼を告げた。
じゃあ仲居さんに夕食を頼んで来ますね、と部屋を後にしたナルトを見送りながらはあ、と溜め息を漏らす。
昼間まであれほど初心な態度を見せた恋人は、自分よりも耐性が備わるのが早いらしいと。
頑なに閉ざされた心も、こじ開けてしまえばあとは鍵さえかけられずに開いたまま。
樽さの抜けたからだを起こして、いつの間にかたたまれて用意してあった浴衣に手を伸ばした。
遅めに届いた夕食に舌鼓を打ち、そのあと再び一緒に風呂に浸かり、同じ布団でひっついて眠った。
触れ合った肌から熱が広がって包み込むような感覚に酔いながら。
「明日はお土産買いに行きましょうね」
「そーだなー・・・何が良いかな」
「あ、何を買うのかはもう決めてるんです」
もう決めてるってベタに温泉饅頭あたりだろうか?と考えているとうつらうつらと瞼が下がって来た。
それにくすりと笑った気配を感じてそのまま夢の中。
次の日ナルトが買い込んだのは大量の生鮮食品。
不思議に思って問うてもただ笑うだけ。
しかしその使い道の謎は帰宅してすぐに解けた。
旅行を譲ってもらったお礼と日頃の感謝を込めて、食料品は旅先で出た食事の再現に余ることなく使われた。
それはヨシノとシカクをおおいに喜ばせ、食事を口にしたシカマルはお世辞ではなく旅館のより美味いと言った。
シカマルの賛辞に顔を綻ばせたナルトを見て、料理のせいだけでないあたたかさがからだを包んだ。
たまには旅行もしてみるものだ。
モドル