それは飴のように甘い<2>(Nサイド)








「おれ?おれ、シカマル。奈良シカマル」



俺は今とても、

混乱、しています。



シカマルのラボで、彼に似た子供が、彼のシャツを羽織って、自分を見上げている。
「あんただれ?」
あ、喋った。
どこか違う世界かのように見える光景に、ぼんやりそんなことを思った。
キレ長だが子供特有のまろみのあるパーツで黒曜石が光る。
「おい、聞いてんの?」
少し苛立ったようにナルトのズボンの裾を小さな手が引っ張る。
「え、あ、はい・・・」
「はいじゃねーよ、名前、あんただれ?って聞いたよな?」
なかなか応えないナルトに眉を顰めるシカマルに、ようやくナルトも思考を戻した。
「すみません、俺は・・・」

名乗ろうとして迷う。

今の状況を考えろ。
この子供はおそらくだがシカマル本人であると思う。
彼と同じチャクラと気配を感じるし、容貌は幼いが特徴は一致する。
子供の背にあるテーブルには何やら妖しげな巻き物が広げられている。
その巻き物が元凶だとしたら、この状況も納得できる。

では今自分はナルトと緋月、どちらを名乗るべきだろうか。
これからのことを考えると、やはり・・・

「緋月と、呼んでくださ・・・」
「暗部名じゃなく本当の方教えろよ」
思わず絶句。
何故、と喉の奥で唸る。
(あ・・・)
馬鹿か俺は、とがっくり項垂れる。
暗部の任務帰りだった自分は変化は解いていたもののもちろん暗部服を纏っており、この姿で名乗っても
本名とは思いはしないだろう。
(ここで嘘ついても、すぐにバレそうですね・・)
小さくなっても彼は彼らしい。

「ナルト、です。シカマル」
シカマルの目線に合わせて屈むとそう名乗った。
「“ナルト”?」
ことりと首を傾げるシカマルを思わず見つめる。
こんなかわいい仕草、今ではもう見られないので目に焼き付けておこうと記憶に刻む。
「ふーん・・・面取ってみせてくれよ」
「・・・はい」
もう今更だろう、と腹を括り狐面に手をかけると手早く落とす。
「―――・・・」
「シカ・・・?」
何故か自分を見つめたまま押し黙ってしまったシカマルに、具合でも悪くなったのかとナルトが覗き込むと
過剰なまでにびくりと震えた。
「どこか具合でも・・・?」
何か副作用でもあったのだろうか?
「っ・・なんでもない」
「本当に?ほっぺた赤いですよ?」
「なんでもねーよっ」
熱でもあるのだろうかと思わず伸ばした手をぱしりと小さな手のひらが払いのけた。
その行動に凍り付いてしまったのはナルトの方で、息をするのも忘れて払われた自分の手を見つめた。

そう言えば、彼にこんなふうに拒絶とも取れる行動をされたことがなかった。

「すみ、ません・・」

(どう、しよう・・・)

声が震えてしまった。
だって、手を払われてしまった。

(嫌われ、た・・・?)

何でだろう、心臓が、痛い・・・。
意識が混濁する。

「ナルっ!!」
シカマルの叫びに、朦朧としていた意識を持ち直す。
「・・え・・・?」
「だいじょうぶか・・?」
「・・・?」
焦ったようなシカマルの態度を不思議に思っていると、シカマルが反応の薄いナルトを見かねて説明してくれた。
「何回も呼んだのに、返事しねーし・・心臓押さえて蹲るから・・」
心配した、と、本当に焦ったのだろうか、大袈裟なくらいに息をついた。
「さっきは、ごめん」
「・・・?」
「ちょっとびっくりして・・手、払っちまって・・。嫌だった訳じゃない」
「は、い・・・」
痛かった?と払ってしまった方のナルト手を取りまじまじと見つめる。
触れられた温度に締め付けられるように痛かった心臓が、ゆったりと脈打ち始める。

大丈夫だと笑えば子供もつられて笑った。
「あのさ、おれ、自分の部屋にいたはずなんだけど、ここどこ?あんたんち?」
きょろりと見回し、何故か大きいシャツ一枚の姿に眉を寄せた。

「・・・シカマル、今おいくつですか・・?」
「とし?もうすぐ4歳」
「ご両親のお名前言えます?」
「シカクとヨシノ」
「・・・」
記憶全てを失っている訳ではないようだ。
ただ、からだも心も4歳の頃に戻ってしまっている。
(俺だけではなんともなりませんね・・)
自宅でないことに違和感はあるようだが、落ち着いた物腰が崩れないのは彼らしいと言おうか・・・。

「・・・聞いてください」
さすがに裸足ではかわいそうだと、キャスターつきの椅子を手繰って座るように背を押してやる。
「あなたは、おそらくそこにある巻き物のせいで4歳児になってしまったのだと思います。
あなたは本当は今20歳の大人で、ここはあなたがご実家を離れてから住んでいる家です」
「ふーん・・」
さして驚いた様子もなくナルトの言葉に理解したと言うように頷いた。
「ナルはここに住んでんの?」
「え・・・」
「だってさ、なんかコップとかいろんなもの、2つずつあるし」
棚に並んだ食器を指差し、な?と笑う。
「・・はい。居候させてもらってるんですよ」
「庭にあった花はナルの?」
「はい」
「ナル、俺の彼女だったりする?」
「はい・・・え?」
立て続けの質問に、うっかり素で返事してしまい振り返ると、どこか嬉しそうなシカマルの顔。
真っ赤になったまま動けなくなったナルトに、
「そこの寝室っぽいとこ、でっかいけどベッドひとつだったし」
「っ・・ち、ちが・・」
違わない。
違わないが4歳児相手に認めては犯罪にはなるまいか?
そんな疑問さえ沸き起こる。
「・・ちがうのか・・・?」
悲しそうに影を落とすシカマルに、違わないです、と小さくだが肯定の言葉を落とせば、子供がほっとした表情をした
のを俯いたナルトは知らない。

「と、とりあえず、火影様のところへ行きましょう・・・」















モドル