それは飴のように甘い<4>








「なーるー」
早く早くと小さな手のひらが自分の指を引いて先を急かす。
「そ、んなに急がなくて、もっ・・・」
背丈の差が大きいのと、自分が屈まなければいけない体勢になかなか慣れず、ナルトは時折転びそうになりながら
子供の後を追いかけた。
小さくなった恋人はナルトが転びそうになるたびに振り向いて、無事なのを確認するとまた走り出す。
繋いだ手のひらが汗ばんでナルトはシカマルが気持ち悪く思わないだろうかと危惧するが、その様子は全く見られず。
嬉しそうに、笑う。

シカマルは上機嫌だった。
自分はどうやら後ろにいる金髪の子供よりもずっと年上の大人で、何らかの術で今の姿になったらしい。
当の本人は、本当に3歳だと思っていたため最初は周囲が自分を騙しているのかとも考えたがどうやら違うようだ。
(それに・・・)
ちらりと視線を投げれば、どうしました?と小首を傾げ微笑むかわいい金髪。
記憶の欠片もないが、何故だか彼といると胸の奥がきゅうとなる。
抱きしめたくなる。
今の自分のからだでは、彼を覆えるほどではないけれど。
強引に引っ張っても、自分の手を離さず目が合えば笑ってくれるのが嬉しくてつい無理をさせてしまうが、
自分を包み込むような愛情を肌で感じられる彼の気配が好きでたまらない。
どうしてこんな気持ちになるのかわからないが、彼が自分の恋人であると言うなら、それは理由になる。

「はあっもう・・・」
ようやく辿り着いた本宅。
シカマルに引っ張られ、無理な体勢でひどく遠回りをさせられたためにいつもは上がらない息をつく。
(Aランクの任務より体力使ってるかも・・・)
これは冗談ではなく。と自分の思考に一人でつっこんでしまうほどには疲れた。
「・・ナル・・つかれた?」
家に入るなりリビングのソファに沈んだナルトに、少し体裁の悪そうな表情を見せたシカマル。
ころころ変わる表情に自然と笑んでしまう。
「いいえ。あ・・シカマル、おなかすいてませんか?」
「えーと・・・ん、すいたー」
「くっ・・・」
きょろりと視線を彷徨わせて自分の腹と相談する子供の姿に、普段のシカマルを知っているナルトは背を向けて笑いをこらえる。

(こんなのも良いな・・)
まあ、滅多に味わえるものではないけれど。
大きな腕で守られるように眠ることも気持ち良いけれど、小さな手のひらで引っ付かれるのも悪くない。
結局は、どちらにしてもあなたが好きだと言うことなんですけど。
「なーるー?」
「あ、すみません・・朝ごはん作りましょうね」
なかなかソファから立ち上がらないナルトを心配してシカマルが膝元から覗き込む。

料理をしているときも、
お皿を並べるときも、
片付けるときも、
ついて来ようとする子供。
親鳥のあとをついてくるヒナみたいだと、くすりと笑う。
「・・かわいいなぁ」
つい出てしまった本音を子供は耳聡く気付いて、そんなの、と顔を上げる。
「ナルのがかわいいし」
「・・・・・・」
今は自分より小さな恋人にかわいいと言われたナルトは内心複雑な気持ちでいっぱいだ。

「ナル、今日にんむ?」
たまっていた洗濯物と家事を済ませ、率先してお手伝いをしてくれた子供に冷たい麦茶を手渡すと、
真っ黒な瞳が見上げてくる。
「いえ、今日は夜もありませんからシカといますよ」
にこりと笑むと、返事を聞いた子供は嬉しそうに笑ってぱたぱたと足を浮かせる。
「シカ、あんまり動くと着崩れますよ?」
ほら、と、さっそく着崩れた子供の浴衣を正してやる。
当初羽織っていた大人用のシャツ一枚で数日過ごすのは不憫だと思っていた矢先、ヨシノがそういえば、
と家から持ってきてくれたものだ。
あまり着る機会もなく、すぐに成長して着れなくなってしまった浴衣は、しかしきれいな状態を保っていたためずっと
押入れの奥で眠っていたようだ。
「そうだ、シカ。服買いに行きましょうか」
さすがに浴衣一枚では困りますしね、と子供を膝に乗せて買い物に誘う。
「えー、いいよ、どうせすぐに元に戻るならもったいねーし」
「でも着替えないですよ?」
「ナルの服かしてくれたら、いーよ・・・」
家事は意外と重労働だったのか、シカマルの瞼は重そうだ。
抱えなおして背中をさすれば、いよいよ眠気も本格的。
自分の胸に擦り寄るさまが可愛くて、眠るまで甘やかすことにする。
「・・ナ、ル・・・」
「はい・・?」
既に夢の中に足を突っ込んでいるシカマルは、それでも自分の名を呼んでくれて、ナルトは嬉しくて笑った。
「ん・・いーにおいする・・・」
「?そう、ですか・・?」
香水を付けている訳でもなく、ナルトは肩を上げて自分で匂いを確かめるが特別良い匂いなどせず首を傾げる。
(あ、そう言えば昨日から柔軟剤変えたから・・)
なんて全然見当違いのことを考えていた。

「なる、の・・におぃ・・・」

言い逃げて夢の中へ完全に旅立ったシカマルを抱えた金髪の子供は、耳まで紅くして。


しばらく壊れ物を包み込むかのように、腕の中の子供を抱きしめた。









モドル