このままゆるやかに過ごせれば
よかったのに
前触れ
ぽかぽかと暖かい陽気に、そうかもう春なのだと実感しながら荷物を抱えなおした。
自分と同じ名前を持つ花が咲き始めている。
ピンクに染まるこの季節が好きだ。
今日は任務も修行もなく短冊街に買い物をした帰りだった。
やっとできた休日、家でのんびりしても良いなと思ったが、せっかくの天気に出かけない訳にはいかないわよねと、
クローゼットを開けると服の洪水が起きた。
「・・・片付けよう・・・」
雪崩れの起きた服の山の下でサクラが呻く。
最近ずっと任務と修行に明け暮れ、雑然としていた部屋を見た母親にとても女の子の部屋じゃないと言われ、
とりあえず部屋に散らかったものをまとめてクローゼットに押し込んであったのだ。
それをすっかり忘れていた。
服の山から這い出てヨシと腕をまくって数時間。
「片付けってやりだすと止まらないのよねぇー」
ふうと息をついて見渡して満足気に頷く。
我ながら完璧!
どこをこすっても埃なんてとれなくってよ、姑の嫁いびりのそれを想像してにやりと笑う。
そうだこの際カーテンも替えてしまおう。
ややくすんでしまったひまわり柄を取り外し、ゴミ袋に突っ込み髪を整えサンダルをひっかける。
ふと立ち止まって持ち上げた半透明の袋には手のひら大のひまわりが写りこんでいて。
ひまわり色の髪を持つ少年を思い出した。
確か今は里外任務でいないと綱手から聞いていた。
最近見ていないが元気でいるのだろうか
またラーメンばっか食べてんじゃあないでしょうね
ちゃんと眠れているかしら?
ねえ
「あらサクラ出かけるの?」
「え・・・?ああ、うん」
ゴミ袋をじいと見つめている娘に母親が訝しげに見る。
「それ捨てるの?ダメよ、捨てる日って決まってるんだから。うるさい人いるのよ」
「あ、そっか、ごめん」
「とりあえず庭のすみに置いといてちょうだい、今度一緒に出しといてあげるから」
「うん・・・」
促され庭のすみにひまわり柄の袋を置いて。
なんだか捨ててしまってはいけない気がしてきたのは、連想してしまった人物のせいだろうか。
おつかれさまでした、と語りかけ、傍で母親が呆れた顔しているのが気配でわかった。
「ちょっと買い物行ってくる」
「はいはい、夕飯までには帰ってくるのよ」
小さい子供じゃないんだから、と苦い顔で笑った。
うるさいなあ、と思わなくなったあたり少し大人になったものだと自分を褒めてみた。
新しいカーテンはピンクの小さな花柄にした。
荷物を抱えなおして舞い散る花びらをぼんやり見る。
「あ」
一面ピンクに彩られたキャンパスにぽつりと黄色い彩りひとつ。
「サクラちゃん!」
嬉しそうに笑って手を振る少年につられて笑う。
「いつ帰って来たのよナルト、連絡くらいよこしなさいよね!」
言葉とは裏腹に頬が緩んでしまう。
「今帰ってきたばっかだもん」
がちゃりと音をたてて忍具の詰まったポーチとカバンをほら、と見せる。
くるくる無邪気にまわる少年に自然と笑みがこぼれるのは仕方ないと思う。
「おかえり」
無事に帰ってくれて良かった、とは心の中で呟いて。
「ただいま!」
にぱ、と笑う笑顔はやっぱりひまわりみたいで、なんだか寂しげな・・・
?
寂しげって、私思ったの?
変なの。
「ナルト・・・」
「んー?」
なあに、と笑うひまわりはやっぱりどこか寂しげで。
「何かあった・・・?」
びくりと小さく肩が震えて笑った顔が泣き笑いみたいに見えた。
「・・・何も」
ないってばよ、って。
ざあって桜が舞い散った。
「俺ってば報告まだだった」
そう言って走って行ったナルトの後姿を、声をかけるタイミングを外した私がただ見送った。
ナルトの死亡報告を耳にしたのは、それから2ヵ月後だった。
何もないなんて、
そんな嘘バレバレなのよ。
でも言いたくないのなら私待つわよ。
いつかあの時はさ、って思い出話になったとしても。
それも良いかな、なんて。
なんで思ったの。
ああ私、弟のような存在にただ姉気取りに浸っていただけなのかもしれない。
寂しげだって気づいたのに
あの時ちゃんと、嫌がられてでも何があったのか聞き出していれば
ひまわり柄のカーテンを捨てなければ
・・・何か変わっていただろうか
モドル