幸せだな、と思うとふいに不安になる



この幸せっていつまで





あるのだろうかと







君の傍に【1】









「焔」


その声に応じるように蒼い炎が時折翠に染まりながら揺れた。
さっきまでヒトだったものが骨さえ残らず炎に包まれ消えていく。
「これで今日は終わりですね」
狐面の少女がこちらを振り向く。
空いた肩から暗部の証である墨が白い肌に浮かんでいる。
「そうだな、戻って休もう」
面の奥で他では見せない優しい笑みを作りながら、刀を一振りして血を払い鞘に収める。

「黒月はもう慣れましたか?」
枝から枝へ飛び移り、息も乱さずほんわりと少女が問う。
“黒月”という暗部名も彼女にもらった。
「まあなー、凛の修行という名の拷問に比べればなぁ」
確かに熱血先生に分類されるとは思っていたが、にこにこ笑いながら投げる暗器は
今思い出しても背筋が冷える。
俺、なんで生きて帰ってこれたのだろう、と振り返るたびに思う。
アカデミーでのチョーク投げなんてリボンがつくくらい可愛らしいものだったんだなぁ。

「でもすごいです、1ヶ月で合格もらえるなんて。黒月、きっと誇りに思って良いことですよ」
「はは・・・さんきゅ」
合格をもらったと言うか合格させられたと言うか・・・。
一日でも早くこの少女を手助けさせるために都合の良い物件の俺を扱くに扱いて一ヶ月で
仕上げたという凛の企みに気付くことなく素直に喜ぶナルト。
彼にとっては俺のためよりも可愛くて仕方のないこの少女のためだ。
まあそれでもナルトの役に立てるなら良いかと割り切れるようにはなった。


空が白み始める。
空気がしっとりと水分を含んで肌に触れる。
「シカマル今日は中忍の任務がありましたね」
そういえばそうだったな、とぼんやり答え、下忍任務程度なら影分身でも良いかと
思ったが、さすがに無理だろうなと息をつく。
ナルトといられる時間は確かに増えたが、圧倒的に睡眠時間が足りていない。
今から戻っても、報告して家に着く頃には既に夜が明けてしまうだろう。
「・・・少しズルしちゃいましょうか」
「ん?」
何を、と振り向くと、ナルトが腰のポーチから紙切れを取り出した。
亜麻色の紙には何やら文字が書いてあり、真ん中にオリジナルらしい印が描いてある。
「私も今日はお昼に任務が入ってますので、できるだけチャクラを残したいので・・・」
取り出した紙切れを唇で食んで、シカマルの腕に自分の腕を絡ませ印を組む。
ゴッと強い風に飲まれ、風圧に目を開けていられず瞑る。
からだが引っ張られる感覚に、一瞬の浮遊感を感じ目を開けると、
「・・俺ん家・・!?」
嫌と言うほど見覚えのある実家に唖然としながらナルトを見つめると、
口から先ほどの紙切れを離してふわりと笑う。
「空間移動の術です。これで3時間くらいなら眠れそうですか?」
「あ、あ・・・そうだな」
ぽかんと口を開けたままのシカマルに苦笑し、
「このお札便利なんです。満月は特に九尾の力が強く出るので、それをこの札にこうやって、」
来たときと同じように唇で挟む。
「特別な印があるんですけど、それを組んでチャクラを札に流し込むんです。
終わったらまた別の印を組んで封じます。そうすると後に起爆符代わりに使えたり、
チャクラ切れの時なんかにこれから補給できたりするんです」
「へえ・・・」
便利そうだ、と感嘆して。
「では報告は私がしておきますので、シカマルはちゃんと休んでくださいね」
「悪い、頼む」
気を遣わせているのは判っているが、正直からだが限界を感じていた。
今日は甘んじて寝ることにする。
「他の日に何か埋め合わせる」
「気になさらないでください、では」
景色に同化して行くナルトの姿に、相変わらずきれいだ、としばし見とれ、
気配が遠くなったのを確認して久々のに家の門をくぐった。


「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、ナルちゃん」
火影室には珍しくシズネしか見当たらず、面を外して部屋を見渡す。
「綱手様は?」
「えっと、」
言い訳を探すように目を泳がせるシズネに、
「また悪い癖が出ましたか?」
「ふぇっあの、そのぅ・・スミマセン・・・」
ちょっと目を離した隙に姿を眩ませたのだと頭を下げるシズネ。
「大変ですね」
ふふ、と笑って報告書を机に置いて。
「では二人でお茶にしませんか?次の任務まで時間がありますし、宜しければ淹れますよ」
「わ、ナルちゃんのお茶ですか?勿論いただきます〜」
うきうきとカップを用意し始めるシズネに笑って、
「フレンチトーストはお好きですか?」
「大好きです!!」
窓の外で雀の鳴き声が聞こえ始めた。



「あ、お帰りなさい綱手様」
一通り、早めの朝食が済んだ頃、不機嫌そうに帰ってきた我が国の火影。
「あの顔は負けたんですね」
こそっと耳打ちするシズネに、
「聞こえてるよ」
悪口は何故か耳によく通るというのは本当らしい。
「言っとくけど、今日は勝ったんだよ」
どこから出したのか、抱えなければならないほどの大きさの風呂敷を机の上にどんと乗せる。
開けると、中には風呂敷いっぱいの札束。
「えぇっっ!!?嘘ですよね!!?」
いつも勝ち知らずの綱手が賭け事に勝った。
「・・これは何か起きますよ・・・」
「私もそう思う・・・」
勝ったのに、普段ありえない事実なので余計怖いらしい。
「お二人とも考え過ぎですよ」
ただの偶然だとナルトが綱手達を慰めていると、

「や、そうでもなさそうだぞ?」
「凛・・・」
いつ戻ってきたのか、報告書片手に凛と呼ばれた男がドアの前に立っていた。
「お帰りなさい、今日はずいぶんゆっくりなんですね?イルカ先生」
面を外したことで呼び名を変え、彼の分のお茶を淹れに席を立つ。
「で、どういうことだい?」
不穏な空気を感じ、綱手が先を促すと、イルカは防音のために結界を張った。
「実は、」

イルカの話が進むにつれ、その場にいた3人の顔色が変わって行く。
どうやら木の葉を襲撃しようとしている集団がいることが発覚したらしい。
「・・・今の話は確かかい?」
「奴らの正確な数字はまだ調査中ですが、事の信憑性は確かです。木の葉に入る前に数を
減らしておきたいところですが、正確な数を調べないことには」
「そうだな・・・今調査隊には誰が?」
「暗部1番隊と5番隊を」
「油目と犬塚にも手伝ってもらおう。お前もだ」
「わかりました。今日は申し訳ないですがアカデミーは影分身に」
言うが早いか、影分身を一体、アカデミーに向かわせる。
「ナルト」
「はい」
「今日の昼に入っていた任務はキャンセルだ、他の者にまわす。お前もそちらにまわってくれ」
「御意」
膝を地につけ頭を垂れる。

その時、窓から折り紙で折ったような鳥が2羽入ってきた。
イルカが手をさしのべ鳥を止まらせ印を切ると、鳥は一枚の報告書に戻った。
紙には暗号で書かれた内容がチャクラを流すと浮き出る仕組みだ。
「一番隊からですね。やはり木の葉を襲う手筈をしているようです。おそらくこの土地を狙っての
ことでしょう。・・・数はいまだ正確には出てませんが、およそ・・・」
イルカの眉間に皺が寄る。
「大体でかまわん、どれくらいだ」
報告書を睨むように視線を落としていたイルカが顔をあげた。

「千」
「せ・・・」
皆がその言葉に唖然となる。
「最悪なのは、殆どか、もしくは全員忍だということです」
「・・・それは最悪だな・・」
一羽目の鳥を炎で燃やし、二羽目の鳥に印を切る。
更に眉間の皺が深くなったイルカにナルトが首を傾げた。
「どうしました?」
「・・・もうひとつ報告が」
ちらりとナルトに視線をやって、

「九尾を狙っているようです」
「なぜ・・・」
世間ではナルトは死んだことになっている。
九尾は宿主が死ぬと、共に逝くと綱手は広めた。
しかし実際は少し違う。
もともと木の葉の土地神である九尾は、ナルトが死ぬと土に還る。
ただそれを里人に伝えなかったのは、ひとえに民の不安を煽らないためだ。
襲撃しようとしている者達は、そのことを調べ上げたのだろう。
「土地神が消滅と言う意味でいなくなれば、木の葉は今頃滅びているだろうからな」
木の葉でもそのことを知っているのは、火影と暗部と言う限られた一握りだ。
「お前が生きていると知って、奪いに来るということだ・・・注意しろ」
「・・・はい」
不安で重くなる胸に俯いた。

「ともかく、全ての忍をここへ・・・里を離れている者も即刻戻るように鳥を出そう」
いつ襲ってくるかわからない。
準備が襲撃より早く終われば良いが、出来なければこの土地で迎え討つことになる。
それをなるべく避けたかった。
今はまだ動く気配はないが、近いうちに大きな戦いがあるだろう。






幸せだと不安になる


いつまた嫌なことがあるのだろうと考えてしまうから


大事なものがあると不安になる


いつ失くしてしまうのかと考えてしまうから





シカマル、あなたに






あいたいです




















モドル