見ているだけで
想うだけで
良かったのに
今はとても
あなたのそばにいたいです
君の傍に【2】
「あーもうっ!!!なんで中忍にもなって草むしりなのよ―――!!!!!」
炎天下のもと、白金色の髪の少女が叫んだ。
ただただ広いどこぞの金持ちの庭の草むしりが、今回の任務だ。
「仕方ないだろ、今日たまたま手が空いてたのが俺らだったんだから」
じりじりと肌を焼く太陽を眩しそうに目を細め、シカマルがイノを嗜める。
「そういうあんたは何してんのよー」
木の影で幹を背にして佇むシカマルに、ずるいと睨む。
「俺は名目上、監視って立場なの」
できるのはアドバイスだけ、緊急事態を除き、基本は彼らを見守るのが任務になる。
「ずるいわー・・・」
この紫外線で私の柔肌荒れたらどうしてくれんのよ、とぶつぶつ文句は垂れながらも、
仕方なく草を刈っていくイノ。
その姿に、もうすぐお昼だし頑張ろうよ、とチョウジが慰める。
シカマルは苦笑して、
「別に素直にやんなくても良いんだけどな・・・」
「えぇ?」
シカマルの言葉に、意味わかんない、と暑さのためのイライラもあり不貞腐れるイノ。
「・・まあ、なんだか元気戻ったみたいで良かったけど」
「そうだね」
ナルトが死んで3ヶ月。
ぼんやりと生気のない幼馴染、蒼い空を見ては押し黙る日々が続いていた。
それがここ1ヶ月ほどでやっと目に光が戻ったような印象を受けた。
「何なのかしらねー」
何が彼を持ち直させたのか。
いくら聞いても別に、とのらりくらりと話は逸らされ、イノはそれを快く思っていなかった。
「かわいい彼女でもできたんじゃない?」
チョウジの言葉にぷ、と吹き出して。
「ナイナイ、それはないわーアイツに限って」
そのときふっと風が揺らいだ。
思いがけない気配にシカマルが目を見開く。
自分の影に肩膝をついて頭を垂れたままの女暗部。
見事な、括っているのに腰まで落ちた金髪に、夏だと言うのに溶けるような白い肌。
木漏れ日が金髪に反射してきらきらと輝いていた。
狐面に隠された素顔が見れないのが惜しい。
気配は完全に消えていたが、彼女の存在に気付いたシカマルの動揺が彼の気配を揺らした。
それにイノとチョウジが気付いて視線を送る。
「誰?」
「さあ、でもあれって・・・」
暗部・・・?
「急なのですが、綱手様がお呼びです。至急、火影室までお戻りいただきたく」
「何かあったのか?」
「はい、少々問題が。今集められるだけの忍を呼び戻しているところです」
「わかった」
「ちょっちょっと!!!」
急な呼び出しに淡々と事を運ぶシカマルに待ったをかける。
「まだ草むしり終わってないんだけど!」
どうすんのよーと広大に広がる、いまだ手付かずの土地を指差し怒鳴る。
「・・・下がってください」
鈴の音のような涼しい声に、怒気もそがれて女暗部とシカマルの傍まで戻った。
軽やかに幾つか印を結び、
「火遁」
ざぁ、と地を舐めるように炎が舞い、一瞬で草が生い茂っていた地はただの更地になっていた。
『・・・』
別に素直にやんなくても良いんだけどな
「・・そういうこと・・・」
やっと納得ができたイノは、瞬きの間にこの広大な土地を更地にした女暗部を唖然と見つめる。
・・・格が違う。
「これで完了としましょう。イノ様、チョウジ様、あなた方も呼ばれていますので今から
火影室までいらっしゃってください」
「俺らは先に行ってるから」
言うなり瞬身で消える二人に残された二人が彼らの立っていた場所を呆然と見つめる。
「ねぇ、何かシカマル、あの暗部の女の人と親し気じゃなかった・・・?」
「シカマル僕らより早く中忍になったからねー、何かの任務で知り合ったんじゃない?」
「暗部なんて何の任務で知り合うのよー」
「わかんないけど・・・ほら、火影様呼んでるんだから急がないと」
「まさか・・・“かわいい彼女”・・・?」
やや不服気に膨れるイノに苦笑しながらチョウジが背を押した。
火影室に向かうと、そこは既に忍で溢れかえり、入りきれないためシズネが皆を大広間へと
案内している。
普段は単独かスリーマンセルで活動するため、このように忍が終結することは滅多にない。
慰霊祭くらいだろうか、とシカマルは辺りを見回した。
今回は黒月として狼面をつけて参加している。
「話は大体わかったが、最新の状況報告は?」
「シカマルを呼びに行く際に、ひとつ式が帰って来ておりましたので・・・」
「わかった、凛に聞こう」
足早に広間に出向き、目的の人物を捜す。
視線を巡らし、あっさり見つけると、彼も気付いて手招きした。
「お待たせしました」
「お帰り黄蝶」
駆け寄るナルトに優し気に髪を撫ぜるイルカに少々の嫉妬の念を送る。
「そう怒るな、仕方ないなぁ」
面越しに睨んでくるシカマルの頭も同じように撫ぜて。
「・・・スミマセン、ヤメテクダサイ・・・」
天然ではなくわざとかまってくるイルカにシカマルが折れた。
「で?今の状況は?」
「あー・・・はは、悪いなぁ、すこぶる」
笑いごとかよ、と呆れつつ、でも総隊長であるイルカが笑っていると何とかなるんじゃないかと
安心もする。
「式が帰って来るたびに敵の数が増えててなあ・・・」
「・・・今わかってる数は」
シカマルの質問に、イルカの唇が弧を描く。
「約三千?」
もう笑うしかないよな、と乾いた笑いをする暗部総隊長の言葉に
会場の談話がぴたりと止まった。
モドル