お前の傍に立っていたい

誰が隣を譲ってやるなど



するものか






君の傍に【3】







「よく集まってくれたな」
人当たりの良い声が、静まりかえった広間に響き渡る。
広間には、普段見ない暗部は勿論、里外任務で出ていた者も戻り、忍の波ができていた。
壇上では暗部姿のイルカが、暗部総隊長として代表で近況を告げるようだ。

後ろには火影、更に後ろには上忍・特上・中忍の各隊長が控えている。
「噂でもう知れていると思うが、今木の葉を襲撃しようとしている輩がいる。
数は今わかっている時点で約三千。おそらくもっといると思う」
ざわりと騒がしくなった室内を、静かな殺気を流して黙らせる。
「いつ襲撃してくるかはわからない。明日かもしれないし一刻後かもしれない。
なので迅速に動いてもらいたい、そのための召集だ」
だからショックを受けてざわつく暇などないのだ、と。
「俺達の達成しなければならないことは至ってシンプルだ。
第一に里人の安全確保、第二に敵の殲滅、第三に各自が無事に帰ってくること」
面はつけたままだが、微笑んでいるように見える。
今回の任務は必ず死者が出てしまうだろうが、それでも全員が無事であって欲しいと。
「凛の言った通りだ。今回は下忍にも参加してもらう。基本は班ごとで行動し、
任務を遂行してもらう形だ。今から各リーダーを設けてあるから、呼ばれた班は
各々彼らのもとに行って指示を仰げ」
凛の言葉を引き継いで、綱手が告げる。
「生きて戻れ」
御意に、と全ての忍が頭を垂れた。


「黄蝶、黒月」
凛に呼ばれて隣に姿を現す。
『はい』
「黒月、影分身を連れてきて消し、お前はシカマルとして戦略部で使ってもらえ」
「実践には出ないと言うことですか?」
黄蝶をちらりと見やり、心配気に漏らすシカマル。
「後々嫌でも出てもらうさ。そのときは黒月として出て来い。
それまで皆が死なないように指示書を作りまくれ。
お前が頑張った分生きて帰れる者が増えるんだからな」
「・・御意」
重過ぎるプレッシャーを受け止めるように面を被りなおし、ぽんとナルトの肩を
叩いて消えた。
「黄蝶、お前にはリーダーを務めてもらう」
「私が?」
「力量では充分だしな。お前が統括する班は彼らだ」
「・・・!」
指で示された者達を見て言葉を失う。
「頑張れ」
にっこりと、笑顔で背を押された。



「なんか大変なことになってたのねー・・・」
イノが感嘆の息を漏らす。
隣でヒナタがだんだん俯いて行く。
「さ、3千て・・・言ってたね・・・」
「今日は弱気禁止!!班行動だろ?俺達ついてんだから大丈夫だって!!」
今は自分よりも大きい赤丸に凭れながら、キバがニカ、と笑う。
隣でシノも静かに頷いた。
「キバ君、シノ君・・・」

「7・8.10班のみなさん」
軽やかな声に全員が振り向く。
その人物にイノとチョウジが反応する。
「あ・・・」
「さっきのひとだね」
シカマルを呼びに来た女暗部だ、と。

月色の髪が高く結い上げられて、腰まで流れていた。
袖のない丈の短い黒の暗部服に身を包み、腕には暗部の証の炎の刺青。
剥き出しの手足は驚くほど細く白かった。
腰に2つポケットが連なるポーチがひとつあるだけ、大仰な得物は持っていないようだ。
狐と思われる面の奥で、蒼い目がこちらを見据えた。

誰もが、その目を見て同じ人物を思い出した。
それは言葉にしなくとも、皆が共感したのがわかった。

「みなさんのリーダーを務めさせていただきます黄蝶と申します」
「あの・・・カカシ先生達は・・?」
いつもなら傍にいる担当上忍がひとりもいないことに疑問だったサクラが質問を投げる。
「カカシ上忍並びにアスマ・紅・ガイ上忍は、火影のもと隊を組んで別行動します。
ですので、今回は私の指示で動いていただきます」
静かな気配。
どこか馴染む気配。

「ナルト・・・」

サクラが漏らした。
自分でも口に出していたことに気付かなかったようで、驚いたように口を押さえている。
そして誰でもないナルトこそ、一番驚いていた。
「ごめんなさい・・・私の、知ってる子に・・・似ていたから・・・」
「いえ・・・」
小さく肩を揺らしてしまったが、彼らはサクラに注目していたため気付かれなかったようだ。
ほ、と小さく息を漏らす。
鼻の利くキバやチャクラの流れを読むヒナタ・ネジがいたため、あらかじめ匂い消しと
チャクラの流れを変えておいて良かったようだ。
「もうすぐ戦略部から指示書がきますので、それまでは待機です。
一度各自家に戻って武器を揃えてきてください。30分後にここへ、散!」
ナルトの声に各自家に戻って行った。



ふと窓の外を見ると、空は重い雨雲が立ち込めていた。











モドル