ガシャンとガラスの割れる音がして、火が、と女の叫び声。
火矢だったのだろう、あっという間に木造の家は炎に飲まれて。
「誰か!!まだ中に息子がいるの・・いるのよ・・・!!!」
ふらふらと真っ赤に燃える家に駆け寄る女を周囲が止める。
「無理だ!!もう・・・」
諦めろ、と声なき声で女を諭す。
泣き崩れたところに、内側からガコっと戸口が開け放たれた。
「あっ・・」
灰色の煙と舞い上がる炎の中から、布に包まれた子供を抱いて狐面をつけた暗部がひとり。
黒い、短いスカートになっている忍服に長い金髪を結い上げていた。
縋るように駆け寄った女に子供を手渡し彼女は消えた。
君の傍に【4】
待機所は忍で溢れかえっていた。
その中で、月色の髪をした暗部姿の少女は目を惹いた。
隣には、闇色で統一された少年、その周りには彼女の部隊なのであろう中忍に
成り立ての少年少女が神妙な顔つきで指示を仰いでいるようだった。
手渡された指示書を斜め読みしながら金髪の少女が黒髪に賞賛を送った。
「さすがシカマル、仕事が速い迅速ですね」
「や、ちょー簡単な指示書だからあんま褒めんな。今はそれで我慢してくれ、
大まかな指示が書いてあるから、それを汲み取って細かい指示をお前が出すんだ。
俺らは動きがあったらその都度指示を出す手配だから」
「わかりました」
「・・・なんかやたら仲良いじゃない・・?」
「そうだねー」
「何よ、チョウジあんた気になんないの?」
不満たらたらのイノにチョウジが苦笑する。
やきもちと言うよりも、幼馴染の彼がいつの間にか自分の知らない子と仲良くなり、
それを知らないことが気に入らない。
ずっと一緒に班を組んで来たのに、どこか悔しさが生まれるのだろう。
「じゃあ他のとこのもあるから・・・またあとでな」
お前らも無事で帰れよ、と軽い掛け声の割に目だけは真剣で、全員が頷いた。
「黄蝶、お前もだ。こんな状況で言う言葉じゃねぇけど・・・無茶はするな」
「・・・わかりました」
にこりと面の奥で笑って、それを感じてシカマルは他の班へ指示書を渡しに向かった。
「さて、みなさん」
先ほどまでとは違う、どこか重い空気を纏って狐面をつけた少女が向き直る。
ぴりぴりとした空気が肌を舐めて、震えた。
変化した姿かもしれないが、自分達とさほど変わらない少女の放つ威圧感に驚きは隠せない。
「任務を言い渡します。あなた達にしていただきたいことは主に里人の安全確保です」
伝えられた任務は思い描いていた内容とは違っていて、戸惑う。
「え・・・戦わないんですか?」
「戦わないとは限りません。ですが、まずやらねばならないことが里人の安全確保です。
すでに伝達が行き渡ってアカデミーに非難している方々もいるようですが、絶対かどうかの
確認が取れていないのです。それをやっていただきたいのと里人の護衛です」
黄蝶の言葉に不満そうな空気が流れる。
「なんか・・・普段の任務と変わんない・・・」
不満げに唇を尖らせ、イノが愚痴を漏らす。
中忍にもなって、自分だって随分強くなったと言うのにそんな下忍のするような任務なのかと。
実力を試したい、と言う気持ちと前線で戦いたいと言う気持ちが強く滲んで。
他の者も口にはしなかったが同じ気持ちのようだった。
それを理解して、黄蝶が静かに見つめる。
「・・・忍の本業は、皆共通の任務内容として“里を守る”です。
アカデミーで習いましたね・・・あなた達の先生方も今その気持ちを持って前線へ赴きました。
・・・自分達に課された任務をしっかりこなしなさい」
穏やかであるはずの口調に厳しさを込め、見つめると先刻とは違う表情で頷くのを確認した。
初心を思い出したのだろう。
「では、振り分けを通告します。まずはサクラさん」
ハイ、と一歩前に出る桜色。
「今回は医療班として励んでください。シズネさんのフォローをお願いします」
「わかりました!」
一礼して忙しそうに医療器具や薬品を運ぶシズネの元へ走って行く。
「残りのメンバー全てで里人をアカデミーへ誘導します。主に西・南にあるこの地域」
広げられた地図を指差し、担当区域を伝える。
「サスケさんと10班のみなさんで西、南の地域を」
シカマルの代わりにサスケを補充する。
「8班のみなさんは別行動です」
手招いて、地図を見せる。
「今、他の部隊が北と東の里人誘導をしています。その終わった地域の確認を。
あなた達の能力が最も有効、漏れのないように」
任せろ、と元気に返事をするキバに苦笑して、緊張で震えるヒナタの肩を軽くたたく。
「地域の担当は班ごとですが、範囲が広いため仲間が常にそばにいることができません。
私も自分の任務を遂行しなければならないため、無線がわりに影分身をひとり一体ずつ付けます」
言うが早いか、素早く印を組んで影分身を6体出す。
「小技なら2,3回は使えるはずです。影分身は常に私とリンクしてありますから、安心して。
何かあれば出来る限り迅速に向かいます」
「では・・・くれぐれも気をつけて」
散!と言う言葉とともに皆持ち場へ向かった。
散らばった気配を確認して、自分も凛のもとへ向かう。
火影と話していた凛がこちらに気付き、暗部用の指示書を手渡す。
「久々のご対面はどうだったんだ?」
「・・・複雑ですね」
苦笑して、指示書を開ける。
こんな形で再会するとは・・・。
「まあ、そうだよな、すまん」
「いえ・・・私はどこを?」
指示書には各持ち場で待機、里を囲むように暗部を配置し、里内への侵入を阻止とだけ記載されていた。
「お前はここ、西北。他のところが手薄になった場合はそちらのフォローも頼む」
「わかりました・・・っ・・・?」
突然妙な寒気を感じた。
思わず腹をさすると、腹の中の妖が行け、と言った気がした。
もともと土地神であったこの妖が、里の危機を伝えてきた。
ビクリと肩を揺らし窓の外を凝視するナルトを綱手が心配する。
「どうした?黄蝶」
「始まったようです・・・行って参ります」
「何だって!?」
微かに爆音が響いたのだと言って、姿を消した。
それと同時に策謀班の一人が転がるように入って来る。
「火影様、隊長、ご用意を!!来ました!!!」
西北だとこの辺か、と瞬身で現れ目を見張る。
空が一面オレンジに見えた。
「なんてことを・・・!!」
慌てて大きめの結界を貼るが、振り向くと後ろでは既に燃えている民家が数件。
敵が火矢を放ったのだ。
真っ赤に燃え、黒煙を吐き出す家だったもの。
「・・・!」
微かに聞こえた子供の声に瞬身で向かう。
思ったとおり、子供が一人押入れで震えて泣いていた。
驚かさないようにそっと近付き抱き上げる。
雨雲が、とうとう雨を降らせ始めた。
雨の音を耳に拾って、ナルトは薄く笑う。
「大丈夫、この里は助かりますよ・・・」
腹を撫ぜると、再び瞬身で外へ出る。
大丈夫、九尾はまだこの里を見捨ててはいない
ざあ、と雨が里中を濡らしていった。
モドル