これは?

―――このお札には私のチャクラが詰まっています。チャクラのスペックと言いますか・・・
―――起爆符の代わりにもなります。唇で食んで印はこう。

・・・わかった

―――頑張ってサクラさん

・・はい・・!

―――でも、



―――ケガはしないで






君の傍に【6】







ナルトが連れて行かれたのを確認して、彼女から渡された暗器で鍵を壊し女達を連れて牢を出る。
女達は先ほどよりも3人増えていた。
ナルトを連れに来た忍は牢内をしっかり確認しなかったため気付けなかったようだが、
実はナルトが残した影分身が3体増えていたのだ。
髪の色だけ黒くしたナルトが3人、こちらを向いて頷いた。
陣地にしているこの建物の周りは森に囲まれ、ちらほらと気配が散らばっていることから見張りの
位置を確認する。

「大丈夫でしょうか・・・」
女の一人が心配気に呟いた。
たったひとり連れて行かれた金髪の少女のことを言っているのだろう。
「大丈夫。今はここを無事抜け出すことだけ考えてください、私を信じて」
きっぱりと言い放てば、こくりと頷く。
外見はただの小柄な少女であるナルトが暗部で強いとは思わないのだろう。
「私が道を作りますので着いて来てください」
ナルトの影分身がそう伝え、早速出会った敵の忍を銀線で切り離し即座に蒼い炎で証拠隠滅する。
気配が減って行くことに気付かれる前に外へ出なければならない。
手近な窓を見つけそこから外へ。
「では」
「サクラさん、皆さんをどうか」
よろしく、と言ってナルトの陰分身が2体、サクラ達とは別の方へそれぞれ散って行った。
「さあ、急ぎましょう」
残りの一体が背を押す。

さっきの2体は陽動だ。
あと数分もすれば適当に暴れて注意を引いていてくれる手筈だ。
残りの一体がサクラとともに女達の護衛代わりに着いて来てくれているが、安全が確認できたら
消えて本体に情報が渡ることになっている。


一方、サクラ達の気配を追いながら敵の忍に背を押され、彼らの長の部屋に通される。
彼女達はなんとかこの建物から脱出できたらしい。
気配はひとつも減ることもなくここから遠ざかっているのに、ほ、と息をつく。
「長、入りますよ」
ノックをすると、中から入れ、と低めの声が響いた。
通された部屋は、元々廃墟であったため簡易なベッドがある以外は武器が散乱しているだけであった。
そして長と呼ばれた男はまだ若く、日に焼けた逞しいからだつき。
水浴びでもしていたのか髪を拭きながら上半身は裸のままこちらをじろりと見やった。
「部隊はもう全て戻ったのか?」
「は、既に」
「そうか。で、例の者は?」
「すみません、まだ・・・」
早急にな、と手短なやり取りが成され、ナルトを置いて男は下がって行った。

(例のもの・・・者・・?)
だとしたら九尾を腹に宿す自分のことを言っているのだろうと予測する。
「ほお、木の葉にもこんな器量の良い娘がいたか」
ク、と顎に手をかけられ舐めるようにからだのラインを辿ると、担ぎ上げ早々にベッドに乱雑に放る。
と、何か気付いたように表情が強張った。
「・・・お前・・・」
ナルトの頭に警告が響く。
シカマルではないが、面倒なことにこの男できる。
気配の持ち方も静かながらにもひんやりとした空気が肌を撫ぜる。
「木の葉のくのいちか」
「・・・」
間髪入れずにナルトの上に馬乗って、首を片手で締め付ける。
服に隠し持っていた暗器は全てサクラに渡したはずなのに、気配でばれたらしい。
「その姿、変化ではないようだが・・・」
足に括りつけていたクナイで服を裂いて行き、武器を所持していないかを確かめる。
露わになって行く白い肌に目を細めながら、しかし服を裂いた際に傷つけてしまい一筋血が流れ落ちた。
「っ・・・」
「・・!お前・・・」
一瞬目を見開き、宝箱を見つけたかのように笑った。
血はすぐに止まり、傷がみるみる消えて行く様に。
逃げられないように縛ってある両腕をベッドの端に引っ掛け固定する。
「ははっまさか目的の者自ら来てくれるとはなあ・・・!」
高揚感を隠しきれないのか、やや興奮気味に開いた肌を撫ぜて行く。
手の感触に身震いしながら、ぐ、と感覚を耐えるナルトに再度目を細めて首に顔を埋め、
舌を這わせようとしたとき。

ドォン、と爆発音と共に地が振動した。
そしてすぐに建物とその周辺一体に結界が張られた感覚。
影分身達の合図。
2体は陽動、サクラ達に着いて行った残り一体が結界を張ったのだ。
サクラ達に着いて行った影分身は、広域の結界にチャクラを使い果たし消えたようで、情報と共にナルトに還って来た。
サクラ達は、どうやら安全なところまで逃げられたようだ。

「何だ・・!?」
木の葉が侵入して来たかと思ったらしい長が顔を上げた瞬間、ナルトは素早く縄を抜け、
髪を括っていた紐をほどいて彼の首に巻きつけて一気に引いた。
ごきり、と鈍い音を立ててゴトリと首が落ちた。
瞬間、どぱ、と大量の血を浴びてしまったが気にせず雑に裂かれた服で拭う。
中にいる敵の忍達はもう逃げられない。
殲滅のためにナルトは手近にあった長の物であろうシャツを羽織ると部屋を出た。



「サクラ!?」
「・・シカ、マル・・?」
木の葉の門が見えて来たところで見知った顔に出会い、張り詰めていた気が緩まる。
「良かった、無事だったんですね!?」
シズネも駆けつけ、他の女達も無事だと分かると破顔し抱きついた。
「ナ・・・黄蝶は?」
珍しく焦りを見せるシカマルに、
「ナルトは囮になってくれて、まだ・・・」
「・・!・・そうか」
あえて“ナルト”と呼んだサクラにばらしたんだな、と気付き視線を落とすが、
サクラの目に強い光が宿っているのを見て安心したように笑った。
「シカマルは知ってたのね・・・」
なんだか面白くないが、それよりも今は。
「早くナルトの所に行ってあげて」
場所を伝えると、わかった、と頷きシカマルは中忍らしからぬ速さで行ってしまった。
それを見送りサクラはナルトに手渡された札を食み印を組むとシズネと共に医療部隊に加わった。
自分にできることを、自分の役割を全うするのだ。
流れて来るナルトのチャクラを感じて、懐かしい感覚に背を押されながらサクラは走った。



森に入るまでに配置してあった見張りを切り流し、愛刀片手にシカマルが敵地に着くと、
あったはずの廃墟は既に倒壊しており、その瓦礫の上に血に染められた金髪をなびかせ少女がひとり佇んでいた。
「ナル!!」
「・・シカ・・・」
既に殲滅を終えて死体を炎で焼いていたナルトに近付き抱きしめると、その格好に眉を寄せる。
「何だ、その格好は」
全身血を浴びて白かったシャツは赤黒く塗り替えられ、所々破れていて。
しかしシカマルが言っているのはシャツ一枚の姿であって、その下に何も着ていないことだ。
「これ羽織っておけ」
自分の羽織っていた外套でナルトを包んで、戻ったらそのシャツ脱げよ、と不満丸出しの顔で言う。
それに苦笑して、
「里の方は?」
「凛を筆頭に粗方片付けてくれたお陰でこちらの死傷者も少なく済んでる」
「こちらも長をはじめ、この辺一帯にいた彼の仲間は消しました・・・あの、サクラちゃん達は・・・」
「ああ、皆無事に戻ったよ」
お前のお陰でな、と笑うと、気が抜けたのかずるりとへたり込むナルトを慌てて抱き抱える。
良かった、と目には涙を滲ませて。
「・・・それより、どうするんだ?」
何を、とは言わない。
サクラに自分がナルトだと伝えてしまったことだ。
「・・・皆にも、ちゃんと話そうと、思っています」
勿論、綱手の承諾が必要だが彼女なら二つ返事で承知してくれるだろうが。
「・・・そうか」
サクラのすっきりとした表情を思い出し、それに少し安心できたのだろうとナルトを見つめる。
「皆には、話しておきたいから」
そう言って笑うナルトは、血塗れであっても美しいと思う。
「安心しろ、あいつらなら大丈夫だ」
「・・・そうですね」
「もしたとえ悪い結果になったとしても、俺はお前の傍にいるから」
抱きしめる腕に力が篭った。


戻って最初に見たのは、駆け寄るサクラ達。
皆、一様に疲労で困憊した姿であったが、無事任務が終わったことに胸を張って完了を告げた。
「お疲れ様でした」
薄く笑うナルトに、
「お前もな!」
ナルト、と唇だけで呟いたキバに目を見張る。
他の者も皆穏やかに笑んで、おかえりナルト、と唇だけで伝えた。

シカマルを振り返ると、彼も穏やかに笑っていて。



久々に、心から微笑んだ。


















モドル