穏やかな風が頬を撫ぜた。

心が安定していく。


それが怖いと


なぜ思ったのだろう




歯車






「ただいま戻りました」
闇夜からふわりと風が靡いて火影の前に黄色が降り立つ。
「黄蝶か」
黄蝶と呼ばれた暗部は高い位置でくくった金の髪をたっぷりと下ろし、ゆるりと床につけていた膝を伸ばした。
染みひとつない白い肌に腰まである金髪を無造作に払い、狐の仮面をおとして長い睫毛から鮮やかな蒼を覗かせた。
細身のからだにその大きな蒼で見つめられて落とされぬ男がいるのなら見てみたいものだ、と綱手は思う。
「何事もなく完了いたしました」
「そうか、あいかわらず早いな」
4件のSランクを数刻も待たぬうちに帰還した暗部に賞賛を送る。
「便利な技がありますので」
「便利と言ってもお前しか使えないじゃあないか」
綱手の不満に軽く肩を竦めてまとめた報告書を手渡す。
「他に何か溜まっている任務があるのなら引き受けますが・・・」
「いや、今日はもうないのだが・・・」
ちらりと何か含んだ目線に応えるように暗部は瞬きをするほどの間で結界を張った。
「何かありましたか?」
「・・・“ナルト”に話がある」
暗い面持ちで唸る綱手を暗部はしばし見つめ、ひとつ印を組むとぼふんと煙をまとって変化を解いた。
現れたのは、長い金髪と蒼の瞳はそのままに、さきほどよりも若干小柄な体躯の少女。
まだ顔には幼さが残っており、見たところ15ほどだ。

これがナルトの本当の姿だった
九尾の件もあり、女であることで受ける暴力を避けるために、3代目火影がそれを隠したのだ。
もしものことを考え、3代目は知り得る限りの術をナルトに教え鍛え、ナルトも彼に応えるように
火影直属の暗部になるまでの力をつけた。
以来ずっと表では男の姿で過ごし、夜は暗部として闇に消える毎日を続けている。
綱手の代になってもそれは変わることなかった。


「・・・お話とは?」
「ああ・・」
促しても言葉を濁す綱手に胸の奥がざわついた。
「・・上層部で何か決定したのですか・・?」
いくつか予期していたうちのひとつを挙げると綱手の表情が曇った。
やっぱり・・・。
ずしりと鉛が胸の奥に生まれたように重い。

「すまない」
「いえ、いつかはと思っていましたから」
私ではどうにもならなくて、と苦しそうに伝える綱手に薄く笑う。
詳しい説明を求めると、予想していたとおりの答え。
九尾の力が表に出過ぎて里民達の不安を煽っているらしい。
これ以上大きな力を付ける前に、九尾に支配されて暴走される前に不安の種を刈ってしまおうと。
「・・・暗殺か処刑か、その辺りはまだ決まっていない」
「そうですか」
「そうですかってお前・・・」
淡々と言葉を紡ぐナルトに綱手の気が抜けて行く。
「日取りは?」
「それも決定はしていないが、2,3ヶ月後だろうな・・・」
「わかりました」
では失礼しますと一礼して結界を解こうとしたナルトの腕を掴み綱手が睨む。
「話はこの続きにある」
座れ、とソファを指差し、それに従う。
「お前は・・・少しは抵抗とかしてくれないものかね・・・」
「私の存在で多くの人が不安で生活がままならないというのなら仕方がありません」
「・・・」
「ひとの命が等しいものなら、私ひとつの命より多くの里民の命を選ぶのが火影の勤めですよ」
「いちいち正論でもっともだけどね、それは違う」
「?」
にやりと勝気に笑う。
「火影ならば全ての民を救おうとするものさ」
誰がお前を死なせなどさせるものかと。








「お前も忍ならば任務中に死ね」
















       











モドル