私に残された時間はあと
2ヶ月
残り時間
暗部の任務を明け方までこなし、今日は下忍任務もないので昼まで寝過ごす―――――
訳にも行かない。
一刻も睡眠を取らず、観葉植物に水をやって洗面台へ。
口角をあげて目は少し弓なりに。
よし、笑顔。
大丈夫できる。
任務とは別に、この1ヶ月でやろうとしていることがあった。
それは誰にも真意を知られずに、ただの自己満足とけじめのために行うもので。
「・・・この姿もあと1ヶ月で見納めなんですね」
すっかり男の子の姿に違和感を感じなくなってしまって、むしろ寂しい気もする。
そっと足元に目線を落とし、決意を胸に鏡の中のWナルト”へと笑う。
サンダルを引っ掛け、玄関から飛び出す。
元気に、いつもの通り笑顔を貼り付けて。
(えっと・・・)
頭の中でこれから行うことを整理する。
確か今10班は里外任務、その他は・・・。
そっと目を閉じて辺りの気配を探ると目当ての気配が里中で確認できた。
一番近い気配を辿ると、それは同じ班のピンクの髪を持った少女のものだった。
ふと周りを見渡すと、彼女の髪と同じ色した木々が惜しげもなく花開かせていた。
しばらく見惚れて、気配が遠ざかって行くのに気づいて慌てて走った。
「サクラちゃん!」
目当ての人物の後姿に手を振った。
手に荷物を抱えてサクラが振り返った。
「いつ帰って来たのよナルト、連絡くらいよこしなさいよね!」
「今帰ってきたばっかだもん」
表では里外任務に出ていたことになっていたので、用意していた忍具の詰まったポーチとカバンをほら、と見せる。
「おかえり」
まったく、と苦笑しながらもおかえりと言ってくれる姉のような存在。
「ただいま!」
私が本当に男の子だったら、きっとあなたに恋していたことでしょう。
あなたと過ごした時間は本当に楽しかった。
本当にお姉さんのように思っていました
言葉にできなくて
ごめんなさい
「ナルト・・・」
「んー?」
サクラが僅かに神妙な顔つき。
いけない、顔に出ていたのだろうか。
「何かあった・・・?」
心臓が跳ねた。
「・・・何も」
ないってばよ、って。
ちゃんと言えた気がしない。
ざあって桜が舞い散った。
「俺ってば報告まだだった」
上手くごまかせる自信がなくなって、嘘をついて走り去った。
サクラがじっと自分の背中を見ているのを感じた。
私は残された時間でしなければならないことがある。
それはただの自己満足だとわかっていても。
暗部の任務の合間に、2ヶ月かけて今まで世話になった者達に会うことだ。
不信感を持たれないよう、ひとりずつ会っていつも通りに振舞って“ナルト”を演じれば良い。
我武者羅に走って路地に入ると、また馴染んだ気配。
しかし気配の主が誰かわかると、ナルトは自身の気配を完全に絶った。
“彼”には、最後に会おうと決めていた。
音も立てずにひらりと真上の屋根にあがり彼が通り過ぎるのを待つ。
彼はいつものようにポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
歩き方にだらけた感じがないことから、任務で里の巡回に当たっているのだろう。
時々、周囲に視線を走らせ観察しているようだった。
(シカマル・・・)
彼にもいずれ会えなくなる。
密かに想いを寄せていた。
叶わぬ恋とわかっていても、想うくらいなら良いだろうと自分に規制をかけなかったのが悪かった。
募るばかりでそのうち冷めると高をくくっていた自分に苦笑した。
アカデミーに入る前、初めて一緒に遊んでくれたひと。
それからずっと友達でいてくれた。
面倒くさいと口では言っていても仲間を見捨てないところが好きだった。
いつか名家の彼はどこか良い生まれの娘と家を継ぐのだろうか。
そうしたら幸せになってくれると良い。
ぱたり
足元に丸い円ができた。
(雨・・・)
今日は晴れると思っていたのに。
シカマルの姿が見えなくなって立ち上がると、視界が揺らいだ。
濡れた感触に頬を触って、さっきのが雨でなく自分の涙だと気づく。
ああ、
自分が思っている以上に
自分は彼との別れを悲しんでいると
他人事のように笑って頬をぬぐった。
モドル