桜もすっかり散って、木々がみどりに染まって行く。
里では思わぬ報せに色めき立っていた。
『うずまきナルトの死亡報告』に。
傍観
祭りのような里の中、暗い足取りで火影のもとへ歩む影。
周りでは笑顔の里人達でいっぱいだという事実が信じられない。
なんで・・・?
自分だけがおかしいのかと錯覚さえする。
信じたくはないが忍であるならば普通に生活している里人よりも若くして死ぬ者は多い。
それが当たり前で、頭ではわかっていたことなのに・・・。
(だって身近な仲間が死ぬことなんて・・・なかったんだもの・・・)
アスマ先生が亡くなった時のイノ達を思い出す。
自分達の忍である時間を共に過ごしてきた仲間だったのだからさぞ辛かっただろう、
とは思ったが・・・・
(こんなふうに実感することになるなんて・・・)
「サクラ・・・」
「・・・」
声をかけてくれた相手に名前を呼び返したつもりだったのに声が出なかった。
ゆらりと幽霊みたいに振り向いて、
出たのは名前ではなく嗚咽で。
いつもは会うと憎まれ口をたたく親友も、今ばかりはそっと肩を抱いてくれた。
「行こ・・・?」
小さい頃にしてくれたみたいに強すぎない力で、でもしっかりと手を握ってもらって火影のもとへ向かった。
今朝早くに火影直々の式神が届いた。
夜明け近くで重たい瞼を全開させるには十分の内容。
『うずまきナルトの死亡報告』
夢を見たのかと思った。
詳しいことは火影室にて話す、と伝え式は消えた。
火影室には同期のメンバーとそれぞれの担任、アカデミーの担任であったイルカ、
火影とその隣にシズネが、皆一様に暗い面持ちで集まっていた。
ふと違和感を感じ、視線を向けると、暗く重い空気の中で一人それに馴染んでいない者がひとり。
(・・・シカマル・・・?)
彼だけは皆とどこか違う気持ちでいるような、そんな感じがした。
「皆集まったようだね・・・」
机上で手を組み座っていた綱手が眉間を潜めながらもゆっくり立ち上がる。
それに応じて他の忍が膝をつく。
「・・・皆もう式に伝えられたと思うが・・・今朝うずまきナルトの死亡報告が入った」
綱手がゆっくり持ち上げた額宛てに、その場の空気が揺れた。
赤黒く変色した血がべっとりとついていた。
「言い渡した任務はCランクの波の国への使いだったが、途中何者かに襲われたものと見られる。
おそらくは人柱力を狙った輩と思われる・・・今も捜査中だ」
「・・・九尾は・・・」
カカシの問いに、
「・・・あれはナルトが死ねば共に逝く。化け物となってまた暴れまわることもないだろう・・・」
手にした血まみれの額宛てを見つめながら綱手が答えた。
「発見した時にはもう息はなく・・・息というか・・・」
「・・・からだはかき集めるのが大変なくらいにばらばらだったので・・・」
苦々しそうにシズネが代わりに答える。
「う・・・」
再び溢れた涙を拭って、それでも止まらない涙。
サクラの肩を優しく抱いてイノが背をさする。
「いったい誰が・・・」
くそ、とキバが壁を蹴る。
誰もそれを注意しないくらいには、誰もが怒っていた。
「・・・この額宛ては、お前が持っていてくれないか」
手渡されたアカデミーの元担任は、神妙な顔つきでそれを受け取った。
「皆」
見渡して目を閉じる。
「かつての仲間に黙祷を」
何人かのすすり泣く声が聞こえるその先で、どぉんと大きな花火が弾けた音を聞いた。
里の皆は喜んでいる。
もうこれで心配の種がなくなった、
誰かが仇をとってくれたのだ、
もっと早くやればよかったものを、
口々にそう唄う里人達。
その顔つきは実に晴れやかで、今日が本当にお祭りのある日だったかと思わせる。
唯一彼の死を悲しむ者達を、火影の窓の外からじいと見つめる蒼一対。
ごめんなせい、と小さく呟いて、木の葉が一枚、地面に落ちるころにはもう姿が消えていた。
モドル