私は黄蝶
任務をこなしたら家に帰る
帰ったら寝る
あの頃の楽しかった思い出を枕に眠ろう
夢であなたに会うまでは
その思い出たちは封印しましょう
決して思い出さぬように
思い出したら
戻りたくなってしまうから
壊れた・・・
近頃おまじないをするようになった。
おまじないと言っても、ただ鏡の中の自分に言い聞かすだけのことだ。
洗面台の鏡に向かって毎日呪文のように。
「私は・・・黄蝶・・・今から・・・任務をもらいに・・・火影様のもとへ行き・・・
任務に向かい・・・終わったら報告して・・・帰ったら花達に水をやって・・・眠る・・・」
そしてぼんやり自分の顔を見て、狐の面をゆっくり被りふらりと窓から滑り落ちるようにして消えた。
ふわりと窓から湿度の高い風が入ってきた。
狐面で顔はわからないが、高く結った長い金髪と、少女と思われるまろみの帯びたからだ。
月に照らされ静かに佇む姿は優麗であった。
「任務、は・・・」
「今日はコレを頼む」
巻き物を2本渡すと、ざっと斜め読みして灰さえ残さず燃やし尽くすと、ゆらりと膝をつき
行って参ります、と頭を垂れると空気に溶けるように消えた。
その様子に綱手が眉を顰めた。
「シズネ、なんか・・・おかしくなかったかい?」
「え?何がです?」
不思議そうに見返すシズネに、気のせいかもしれない気にするな、と言い渡し。
「・・おかしいと言えばシカマル君」
「奴がどうかしたのかい?」
「いえ、なんとなく・・・何と言えば良いかわからないですが・・・」
勿体付けて言っているのではなく、ただどう伝えれば良いのか本当にわからないのだという様子だ。
「任務の受け渡し時とか・・・何か言いたげにしてるんですよね」
「・・・確かに・・」
それは綱手自身にも覚えがあった。
いつも何か言おうとして失敗している、というよりは、自分でどう順序立てて話せば良いのかが
わからないと言った感じが、彼らしくないと思っていた。
「・・・まあ、それもこれも“ナルトの葬式”以来だからね・・・」
皆心に傷を負っている。
ナルトに至っては、今までのように知り合いにも接することもできず、夜に任務をこなすと
朝から夜まではずっと死の森の奥にある自宅で過ごしているらしい。
最近めっきり任務以外での会話が減ったと思う。
同期であり仲間だった彼らの話は辛いかと思い、そうすると他の話題もさして沸く訳でもなく、
沈黙が増えた。
そしてナルトが自分の前で仮面を外さなくなった。
「私の決断は間違っていたのかもしれないね・・・」
「綱手様?」
「あの子のためだと思って取った行動が、悪い方向に向いている・・」
ふうと息を吐いて深く腰掛ける。
「・・・その内きっと良くなります」
確証のない励ましだが心休まる言葉に、しかし綱手は確かに癒された。
「そうだといいね・・・」
コンコンと軽いノックオン。
「失礼しますよ」
ぺこりと律儀に頭を下げて、手には報告書の束を抱えて狼の面をした青年が入ってきた。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます、これお願いします」
シズネの労いに面の奥で微笑んだのがわかる。
持っていた紙の束を手渡し綱手のもとに膝を折る。
「任務完了いたしました」
「ご苦労だったね」
無事の生還にほ、と息をつく。
「凛・・・いや、海野イルカよ」
暗部で与えられた名を改めて本名で読んだので、イルカは犬の面をそっと外す。
昼間はアカデミーの教師をこなし、夜は暗部総隊長として任をこなす。
小さい頃からナルトの助けをしてきており、火影とシズネ以外で彼女が女だと知る唯一の人物だった。
「どうかしましたか?」
「いや、任務ではなく私個人の頼みがあるのだが・・・」
「なんですか改まって・・・」
言葉を濁す綱手に、妙な気味悪さを覚えて若干距離と取る。
「ナルトの様子、なんだか最近おかしくないかい・・?」
「最近で会ったのは1ヶ月前くらいでしたので、わからないですね」
「そうか・・・」
暗い表情の綱手に、
「何か気になるのであれば、様子くらい見に行きますよ」
最近会っていなかったし、と付け加えイルカが笑う。
「頼む」
こくりと頭を下げ、そのまま消えた。
モドル