ねえもしも

きっとあり得ないことだけど、


あなたが好きだと言ってくれたなら


こんなおまじない



いらないのに





再び出会って








「はぁ・・・あ、」
またひとつ幸せが逃げて行った。
イルカは零れた溜め息について再び溜め息、という悪循環を続けている。
「どうしたもんかな・・・」
悩みの種は、幼いころから妹のようにかわいがり、親同然に育て教え、
アカデミーの生徒でもある少女だ。
彼女の現状を火影に報告しに行くところだが、報告する内容も変わらない。
内容も何も、ただ首を振れば良いだけだ。

ナルトはあいかわらず昼はぼんやり寝ているのか起きているのかわからない状態で過ごし、
すっかり日が沈むとふらりと任務をもらいに火影のもとへ赴く。
今までの経験やもともとの実力があいまって、任務自体には何の支障もないようだが
私生活がよくも生きていられたものだと呆れるくらいのレベルに堕ちていた。

きっと今までもぎりぎりの精神状態であったのだろう。
それを表に出さず、いやもしかしたら自分自身気付いていなかったのかもしれない。
あんな状態になるまで、暗示をかけなければ自分が保てなくなるまでに。
親代わりの自分がどうしてあの少女をもっと気にかけてやれなかったのか、
忙しさを理由に怠ったことをひどく後悔していた。

今では影分身にナルトを任せて任務に出向き、それ以外はどうやって彼女を正気に戻すかを調査中。
影分身が見張っているためもう暗示はかけていないが、あれから1ヶ月たっても
何の変化も見られない。
ということはおそらく、
「何かキーワードがあるんだろうな・・・」
もしそうなら故意で暗示を自身にかけ、それを解くための何かキーワードを設けたはずだ。
思いつく限りの言葉をナルトにかけているものの、この1ヶ月何の音沙汰もなく。

もしかしたら自分では駄目なのかもしれない。
“キーワード”があって、且つ“誰か”という指定があるとしたら到底ひとりでは対処できない。
更に条件があったとしたら・・・。
「・・・はあ・・・」

本日3桁目の溜め息が漏れた。


「ん・・・」
見覚えのあるあのだらけた歩き方は・・・。
「シカマル!」
「・・・イルカせんせー・・」
よ、と軽く手を挙げて目の前を歩いていた元教え子に声をかける。
「今から任務か?」
「いえ・・・」
珍しく歯切れの悪いシカマルに首を傾げつつ並んで歩き出す。
「でもこっちは火影室にしか行かないぞ?」
「・・・ちょっと聞きたいことがあって」
「?そうか」

どこかぼんやりと宙を見据えるシカマルに、ナルトが重なる。
何か任務のことで悩みでもあるなら言ってみるもんだぞ、と笑うとどこか探るような視線を寄こした。
「イルカ先生もだ・・・」
「・・?何がだ?」
いや、と再び押し黙るシカマル。
「何だよ、気になるだろ」
「・・・」
しばし間を置いて、シカマルが屋上で少し話しませんかと誘う。
珍しい誘いに断る理由もないな、と後を着いて行った。
元教え子が自分を頼ってくれるなんて、と教師の喜びを噛み締める。


「で?何か悩みでもあるのか?」
何でも言ってくれ、できる限りは答えるつもりだ、と胸を張り。
「・・・イルカ先生は・・ナルトが死んだと思いますか・・・?」
いきなり答えられない分野であった。
「・・・死亡報告があったからな・・」
「そんなこと聞いてない。先生は、あいつが死んだと思っているのか否かを聞いてるんだ」
「なんでそんなこと・・・」
「どっちだよ?」
いつになく切羽詰った感のあるシカマルに、思っている、と答えてやった。
どう自分が思おうと、用意していた答えはもともとひとつだった。


「・・・お前は違うのか?」
なぜ?
もしやナルトが生きていることをどこかで嗅ぎつけたのか?
こくりと頷くシカマルに今後の対応を練り上げる。
シカマルは俯きながらもぽつりぽつりと話始めた。


死亡する2ヶ月ほど前から急に同期のメンバーに会いに行っていたことを伝えた。
もうひとつくらいありそうだったが、何故かシカマルが真っ赤になって止めた。
「あと、イルカ先生」
「え?俺?」
何かおかしな行動取ったのだろうかと思い返してみるが浮かばない。
「なんとなく・・・想像していた行動と違ってたから」
と予想外の答え。
シカマルらしくない曖昧な言葉だった。
「結構ナルトのこと気にかけてかわいがってたみたいだし・・・アカデミー卒業しても
付き合いがあったから・・・もっと取り乱したり・・するのかと思ってた」
なんて、これ俺がチョウジに言われたことそのまんまなんですけどね、とシカマルは笑った。
イルカは押し黙る。
自分はナルトのように演技ができない。
仕事と私生活のけじめはつけているつもりだが、こればかりは自分の性というものが邪魔する。
暗部総隊長という地位にいても、イルカはイルカであった。
もしかしたら何人かは気付いているのではないかと思うほど、素のままで過ごしている。
ナルトの死亡報告を聞いた際も、どういう対応をして良いかわからなかったのだ。
涙のひとつでも流すべきだっただろうか。
「俺は単にぴんとこなかっただけさ・・まだ生きているような気がしてな」
そうですか、と返事があり、しばし沈黙が流れた。

ややあって、シカマルが空気を動かす。

「じゃあ・・もひとつ聞きたいことがあるんですけど・・・」
「なんだ、言ってみろ」
聞きたいことがある、と言いつつもまだ迷うように揺れる黒。
「ナルトって・・・男ですよね・・?」
「はっ・・・・?」
イルカの反応をシカマルが見逃すはずもなく。
「・・・実は一度、ナルトが女の姿で来たことがあって・・・」
「お色気の術だろ・・?」
頼む、そうであってくれ、と冷や汗が止まらない。
「はじめはそうかとも思ったんですけど・・・なんて言うか、いつものとちょっと違って・・・」
「・・・ナルトはその姿で何がしたかったんだ・・?」
シカマルの話を聞く限り、ナルトは変化ではなく本来の姿をシカマルに見せたようだ。
思わず出た本音に、シカマルが口を噤んで顔を逸らした。
覗きこまずとも耳まで紅くては様子は察しできる。

(おいおい・・・)
まさかとは思うが、と予想が間違いであってくれと思うのは親心。
ナルトがシカマルに好意を寄せていたのは知っていた。
だから彼に会えるのがこれで最後と決められてしまった時の女として取る行動のひとつを予想。
それがどうも当たってしまったらしい。
別にだからと言ってナルトを怒る気にもならないが、内心複雑だ。
そろそろ色任務も入ってくることもあるだろうし、それなら初めては好きな人とさせてやりたい。
いつかは来ると思っていたものも、実際に経験するとなんだかもやもやとしてやりきれない。

「それでお前は、もしナルトが仮に女であって自分の死期を知っていたとしたら何だと言いたいんだ?」
「・・・ひとつ仮説を立てました」
本当は幾通りも考えたがこれが一番ぴんと来たのだと付け加えて。
「あいつは女に生まれたが、九尾の件もあって里人からの、せめて性的暴行を避けるために
亡き3代目が男で過ごすことを命令、且つ身を守るために3代目はナルトにいくらか修行をつけたの
ではないかと思います」
ほお、とイルカは目を見開く。
シカマルの仮説は殆ど間違いなく、ただ修行をつけたのは自分だというくらいか。
「少なくとも中忍から上忍レベルは。しかし上層部はお堅い爺ばかりだ。いつでもどうやって
ナルトを殺すか幽閉するかを企んでいる。どんどん力をつけて行くあいつに抹殺命令が
下される前に、ナルト贔屓の5代目が今回の偽装を謀った」
・・・合格点。
赤ペンで花マルをやりたいところだ。
「すごい仮説だな・・」
「馬鹿げたこと言ってるのはわかってますよ・・・」
いや、嫌味ではなく褒めたいところなんだよ、本当に。
馬鹿にされたと少し拗ねたように口を尖らせるシカマルに苦笑して。
「で、お前はもしその仮説が本当だったとしてどうしたいんだ?」
ただ自分の立てた仮説が正しいのかをはっきりさせたいだけなのか、シカマルの真意がわからない。

「あいつの力になりたい」
「は?」
きょとんと見れば、シカマルの紅い顔。
「俺で役に立てることがあるなら、何かしてやりたい」
「・・・・・・」
「もう一度会いたい・・」
「・・お前、ナルトが好きなのか?」
友愛じゃない方な、と訊ねると更に紅く染まる頬。
なんだ、両思いかぁ、良かったなあ・・・でも少し寂しいこれも親心。

なるほど、とひとつ頷いて。
もしかすると今のナルトを正気にさせてくれるのはシカマルかもしれないな、と。
自分の好きな相手なら、なんら反応があるかもしれない。

「・・・シカマル、これからしばらく任務を頼まれてくれないか?」
「は?」
「俺の仕事を手伝って欲しい」
「・・・アカデミーの・・?」
「いや・・・」

不思議そうに見上げるシカマルににやりと笑って。       




「金髪美人の世話」


























モドル