前触れもなく、振り向いた
呼ばれた、
気がして
呼んで逃げる
「やだ、急に何よ?」
いつもは急かしてもなかなか腰の重い幼馴染の突然の俊敏な動作にイノが声を荒げた。
「・・や、別に・・・」
何でもねぇ、とあっさり背を向けられて、一体何なのよ、と唇を尖らせた。
(誰かに・・・)
見られていた、気がする。
辺りに気を巡らせても自分の幼馴染達以外の気配は近くに感じない。
それはとても不確かな感覚。
(あ、違う・・・)
見られていた、のではなくて、
呼ばれた。
そんな気がした。
そしてそれは自分が知る人物だったような気がした。
姿を見た訳ではない。
声を聞いた訳でもない。
でも何故か、
お前しか思いつかない。
何故だろうな。
なる、と声にはならなかった言葉が滑り落ちた。
「・・・っ・・」
驚いて思わず足場にしていた屋根に身を潜めた。
今は名家の子供達を無事家まで見送る護衛任務中。
姿は勿論、気配も完全に絶っていたつもりだ。
振り向かれて、なお名を呼ばれるなど思っていなかった。
熱の上がった頬を手のひらで冷やす。
(び、びっくりした・・・)
心臓が耳元にあるような錯覚。
血液が逆流してしまいそう。
名を呼ばれただけだ。
何故こんな状態になるのか。
「ど、どうしよう・・・」
何かの病気だろうか?
傍から見れば馬鹿馬鹿しい話でも、ナルトは真剣だった。
(今日、イルカ先生に聞いてみましょう・・・)
あの影使いの子供を見るたびに
心臓の鼓動が早くなるんです
顔が勝手に紅くなるんです
俺は病気でしょうか
モドル