飽和状態の飢餓







夕日に染まった蜂蜜色に手を伸ばした。
気配は垂れ流していたために特に驚かれることもなく、触れられた蜂蜜はゆっくりと振り向いた。
何?とことりと小さく首を傾げて。
「・・・気にすんな」

触りたいんだよ。
どこもかしこも。

目の前の愛しい恋人は、自分のために夕飯を作っている最中だと言うのに。
後ろからぎゅうと抱きしめて、
肩に顎を埋めて、
時折目の前に映る柔らかな頬に唇を寄せる。
夕日に負けないくらい紅い蜂蜜を、それでも放せない。

ヨシノから教わったらしい家庭料理を満喫しつつ、それでもひっついていたくて
食べ辛いだろうに蜂蜜は自分の膝に挟まれて食事をしている。
嫌がらないことを知っていてやっている自分は横暴だと分かっているんだ。
時々ちらりと申し訳なさそうに視線を送るのを知らない振りして、ふわりと掠める蜂蜜に吸い寄せられる。

腹は満たされたにも関わらず、何故なのか。
足りない足りない足りない。

俺の影で、お前をどこまで括れるだろう?

その蜂蜜?
からだ?
心までも?

魂と言うものが存在するのであれば、それさえ括って縛り付けて自分に取り込んでしまいたい。





「なあ、」


「お前は俺にどれだけくれる?」

お前を、俺に、どれだけ。

唐突な質問におっきな蒼を更に開いて。

「・・・望んでくれるだけ」
「そしたらお前なくなるぞ・・・?」
「俺を全部もらってくれるのですか?」
「・・・ああ」
願ってもない返事だ。

「・・・抱きしめて良いか?」
「・・・これ以上に・・・?」
既に苦しいほどに抱きしめていたのに。
もっと、と心が叫ぶ。
「うん、もっと」

じゃあ、と蜂蜜はごそごそと拘束されていた腕を引っ張り出して。

「俺がその分抱きしめますよ」

それでいかが?と嬉しそうに細められた蒼に、
回された腕の温度に、






少しずつ、







ぽかりと空いていたところが埋まって行った。










モドル