いいから泣けよ







久々に、自宅でひとりだった。

2ヶ月ぶりにまるまる一日休みをもらった。
死の森にある本宅でナルトは全ての窓を開け放した。
この家での唯一である同居人は、明日まで里外任務で帰って来ない。

「・・・こんなに・・・」
静かだっただろうか。

さわさわと木々が擦れ合う音以外、シンと静まり返った自宅に妙な面持ちになる。
いつもなら、シカマルがいた。
夜の任務は大抵行動を共にするため、下忍任務が終わって帰ればそれほど時間を空けずにここで会えたし、
暗部の任務が終われば僅かな時間を一緒に睡眠で埋めてまた下忍任務に向かう毎日だった。
なるべく休日は同じ日になるようにしてきたし、そのため今日のように突然手渡された休日をどう消化しようか戸惑ってしまう。

明日までひとり。

(こんなの、シカといるようになってから初めてですね・・・)

普段忙しいだけに、突然自由になる時間をもらっても何をして良いのかわからず、とりあえず縁側に腰を下ろす。
「・・・そうだ」
こういう日を使ってそうじをしなければ!
放りっぱなしの家事をやってしまおう、そうしよう。
袖をまくって、ナルトは部屋の奥に向かった。

ふと気付くと、視界がひどく悪くなっていた。
すっかり暗くなった廊下に、夜が来たことを知らされた。
ずっと曲げていた腰を戻して持っていた雑巾をバケツに放って水場に汚れた水を流す。
普段からこまごまと片付ける癖があり、早々に溜まっていた家事は終わってしまった。
「どうしましょうか・・・」
暇だ。
夕飯の用意も終わってしまった。
火を止めて鍋の蓋を取り、出来具合を確かめる。
「あ・・・」
しまった。
いつもの癖で2人分用意してしまった。
苦笑して、蓋を閉めると僅かに響いた金属音でさえひどく耳に響いた。
「・・・」
何気なく、気配を巡らせるが勿論自分以外に何の存在も感じなかった。
いつもより、家が広い。
いつもいるはずの、ひとがいない。
彼に会うまでは、これが常であったはずなのに。
ひどく居心地が悪かった。

ぱたり。

軽い落下音。
それはいくつか響いて、そしてざあ、と一気に広がった。
「しまった、洗濯物・・・!」
ぼんやり呆けていた思考が働き始めた。
「さっきまで晴れてたのに・・・」
いつもなら雨の匂いに気付くのに。
せっかく干した洗濯物を竿からひったくりながら、しかし注がれる雨に重くなっていく洗濯物と自分のからだと心に、
なんで?と答えのわかりきった質問を繰り返す。

シカがいない・・・。

いつもと違うのは、彼がいないこと。
近くにいない。
目の届く場所にいない。
彼は自分の所有物ではない、そんなことは分かっているのに。
目が追う、捜し、求めてしまう。

洗濯物を抱えながら、立ち尽くす。
こんなにも、依存しているとは。
どうしようもなく不安定に揺れる心が、涙腺を壊す。

「ナル?」
「・・っ・・・シ、カ・・・?」
現れた気配と声に小さく肩が揺れた。
振り向けず、言葉だけで問う。
「俺以外に誰と思うんだよ」
苦笑して、しかし何故か自分に顔を見せてくれない金髪に首を傾げる。
「任務、明日・・」
「あー、早く終わらせた。つかその洗濯物寄こせ、手伝うから」
すっかり濡れて雨が滴る金髪は、動かない。
不可解な沈黙に耐え切れずに、無理矢理肩を掴んで自分に向き合わせた。
「・・っ・・!!」
「・・なんで、泣いてんだ・・・?」
雨とは違う、透明の雫が頬を流れ落ちて行く。
「何かあったのか?」
「違うんです、これ、は・・」
自分でもどうして涙が出るのかわからない。
「・・これは雨です、から」
「・・・そうか」
「雨なんです・・・」
「・・・もう、いいから」

拙い言い訳をそのまま受け止め、包み込むように抱きしめてくれた。











モドル