とてとてたとたと






とたとた。
小さく軽やかな足音が近付く。
本当は足音を消してしまうこともできるが、ここは家の中だからしない。
あ、タオル忘れた、と小さな足音の主は誰に言うでもなく呟いて廊下の奥の自室に戻って行った。

「あれぇ、ないー」
お気に入りのタオルがない。
母と、最近知った父とおそろいで買った物のひとつ。
「かあさまー、しいなのタオルがありませんーっ」
二階のベランダから、真下で村の者達と談笑していたナルトに呼びかける。
「タオル?あのオレンジの水玉の?」
ことりと首を傾げるナルトに大きく頷いて見せる。
「それなら他の荷物と一緒に送ったから大丈夫ですよ」
なんだぁ、とあからさまにほっとする娘の様子にくすりと笑う。
突然現れた父親を意外にすんなりと受け入れた娘は、とても前向きに生きていると思う。
自分がなりたかった姿が目の前にある。
眩しくて目を焼かれそうだ。


生まれてからずっと育った地を今日離れることになったと言うのに新しく生活する地を楽しみだと言う。
しいなを産んでからずっと世話になったこの村は、むしろナルトの方が後ろ髪を引かれていると思う。
「かあさまー、とうさまいつ来る?」
「もうそろそろですよ、気配探ってごらんなさい」
「・・あ、ほんとだ!しいなお迎えにあがっても良いですか?」
「私も行くから一緒に村の方にごあいさつしましょうね」
言い終わる前に飛び出していた娘の襟元を引っつかんで止めると見送りに来てくれた村のひと達へと向き直る。
「本当にお世話になりました」
「黄蝶さんもしいなちゃんもいなくなったら、この村の華がなくなるなぁ゛ぁ」
「まだまだ枯れちゃいないんだけど・・?」
妻に頬を引っ張られる夫に一同が笑い合う。
「もしも居づらくなったらすぐに帰って来るんだよ」
少し寂しそうに笑う村人達に深々と頭を下げ、元気に手を振る娘と共に歩き出す。
住んでいた家は、しばらく空き家になるらしい。
目を閉じれば、ささやかな生活の音が聞こえてくる気がした。
朝御飯の支度の音、洗濯物の水気を切る音、娘の小さな廊下を走る音。
お世話になりましたと玄関の戸に手をあてて礼を言うと、まるで返事のようにざあっと風が舞って凪いだ。

「あーとうさまー!!」
きゃーと駆け寄ったしいなを抱き上げた人物は、笑って空いた方の手を差し伸べた。
「・・色んな意味で遅くなって悪かった」
「あなたが謝る必要なんて・・」
手を引かれそのまま抱き寄せられ、そのまま口付けられそうになってじいと見つめる双眸に気付きばっと離れる。
シカマルは残念そうな表情を見せたが、しいなの死角で後でゆっくりな、と唇だけで伝えナルトの頬を染めた。


歩き出した3人の影が繋がっていた。




















モドル