「なあナルト」

「何だってば?」

「俺、お前のこと好きなんだけど」


付き合って欲しい、と
耳まで紅くして俯いた黒髪は、プレゼントしたジュースを握り締めたまま告白した。






告白誕生日







「は・・・え?」
突然の告白に、頭の中が数秒フリーズした。
自分の爪先はピンクに染まっていて、目の前の彼と同じくらい紅いのだと知る。

えっと、
整理、整理しよう。

今日はシカマルの誕生日で、下忍任務を終えて何かプレゼントをと思い街に出た。
ナルトの姿ではまともに物を売ってもらえないので暗部時で用いる緋月の姿に変化して。
若干騙している気がして引け目も感じたが、緋月の姿は自分を5歳ほど上乗せしたもので、
あとは髪を黒、目を茶色という里では一番一般的な色に変えただけだし良いかと納得させて。
頭の良い彼にオリジナルの暗号を作ってもみたが、“表のナルト”が渡せるものではなく。
ピアスは名案ではないだろうかと浮かれたが、ただ友人の誕生日に送るにはあまりにも意味深だ。

実はアカデミーに入る前からシカマルに思いを寄せていたナルトだ。
腹の九尾のこともあり、同世代の友人さえ作れずにいた自分に初めて手を差し伸べてくれたのがシカマルだ。

(はあ、どうしましょうか・・・)
何をあげたら喜ぶだろう?
ありがとうと言われなくても良い。
喜んでほしい。
笑って欲しい。
その一時を気分良く感じてもらえたら良い。

金なら暗部の給金が腐るほどあるのに。
下忍でしかない表のナルトでは買えるものも限られる。
(ここは無難に消耗品でしょうか・・・)

子供らしく菓子とか。
(いや、シカマルは甘いもの喜ばないし・・・)
かと言ってスナック菓子が好きかと言うとそうでもなく。
和菓子は好きなようだが、どの程度の甘さまでOKなのかがわからない。
(・・・ジュース・・くらいなら)
表のナルトでも違和感ないだろう。
あまり甘過ぎないものを2つ選んで。
そしてシカマルの家に向かって。
そしたらシカマルも任務から帰って来ていて、出窓に背を預けて本を読んでいた。
自分の気配に気付いて、来いよ、と呼ばれて窓から失礼して。
ジュースとオメデトウをプレゼントして。

「覚えてたのか?サンキュー」
ジュースの瓶を軽くあげて礼をされた。
恋をしている欲目なのか、嬉しそうに見えてもちろんだってばよ、と笑顔で返して。
「つか、何で急に?」
「へ・・・?」
質問の意図がわからず首を傾げると。
「や、去年までこんなのなかったじゃねぇか・・・」
「ぅ・・・その・・・」
そう、プレゼントなど今日初めてしたのだ。
気が向いたから、とでも言えば良いのかとも思ったが、何となく嘘をつきたくなくて。
「俺、誕生日にお祝いするんだって、知らなくて・・・」


だって誰も教えてくれなかった。
当たり前のこと過ぎてアカデミーで教えることでもなく。
憎悪ばかり与えられて、自分の生を祝ってくれる日があるなどとは知らず。
自分の誕生日は挙って里人は普段よりひどい暴行に出るため、自分にとっては恐ろしい日でしかなかった。
最近になってたまたま知った知識だったのだ。
下忍任務が終わり報告に帰る途中、目に入ったケーキ屋。
窓からケーキのケースが見えるようになっていた。
きらきらと宝石のように煌めく菓子たち。
吸い寄せられるようにケースを魅入って。
自分ひとりで買い物するときは追い払われたり暴力に及ばれたりと、じっくりショーウィンドウなど
したことがなかったから。
物珍しそうに見ているナルトを不思議そうにしながら、サクラ達も寄ってくる。
「サクラちゃん、あの丸いのは?」
まだカットされていない丸いケーキを指差すと、
「あれってお誕生日用のケーキでしょ。それがどうかした?」
「お誕生日、用?誕生日って、ケーキ食べる日なんだってば?」
『・・・・・』
そう問うと皆黙ってしまって、しばらくしてからサクラが丁寧に教えてくれた。


そのことをシカマルに正直に話した。
「誕生日って、ごちそう作ってもらってプレゼントもらう日なんだってサクラちゃんが」
にこにこと楽しそうに話すナルトに、シカマルは眉根を寄せた。
ナルトは普通に生活していれば自然に知ることができる“当たり前”を知らないことが時々ある。
今まで知らなかった、なんて、どれほどの愛情を受けたのかが知れる。

「・・そうか。でも、なんで俺に?」
他の奴にも祝いにまわっているのだろうかと。
「え・・・ゃ・・」
首まで真っ赤にして俯いたナルトを見て、シカマルが言った。
「なあナルト」
「何だってば?」

「俺、お前のこと好きなんだけど」



(思い出した・・・)
思い出した、整理もできたが、解決しなかった。
だってまだ指先が震えている。

(シカマル、が・・・俺を好き・・・?)
嬉しい。
彼の誕生日なのに、自分が喜ばされてしまった。
(でも・・・)

「ごめ・・・シカマル、と付き合う・・とかできないってばよ・・・」
一瞬シカマルは目を見開いて。
「なんでだ・・・?俺のこと嫌いか・・・?」
言えない。
九尾のことは機密事項、他言は許されない。
自分のせいでシカマルまで悪く言われたり、ひどい暴行が行われたりしたら・・・。

「嫌いな訳ないってば・・ただ、俺の“好き”は・・・シカマルの好きとは・・・」
違うんだ、と嘘を吐く。
シカマルの表情が一層険しくなる。
「それに、俺ってば男だもん。シカマルもてるんだし女の子にしとけってば」
「・・・・・・」

胸が痛い。
自分の言葉で彼を傷つけている。
喜ばせたかったのに。
笑って欲しかっただけなのに。
自分の軽はずみな思いつきで。

「男同士だから、ねぇ・・・」
ぽつりと呟いた声に肩を揺らして。
「その点は問題ねぇんだわ」
「え・・・?」
結界を張ったかと思ったら、ぼん、と変化独特の音がして。
煙が晴れて現れたのは。

「シカ・・・?」
いつもは高く結っている髪を下ろして、それは腰につくほど。
細身の体躯にしなやかさが加わって、ぱらりと落ちる前髪を耳にかけながら切れ長の目が見下ろす。
「俺、女だから」
「ふぇ・・・?」
素で驚くナルトの手を取って、自分の胸を掴ませた。
「ほら」
「・・・っ・・」
ふに、とした感触に顔を更に紅くして手を離す。
焦ったような、驚いたような、困ったような、たくさんの感情をどう言い表せば良いのかわからず
ただただシカマルを見つめる。

「・・・まあ、うちも色々あってな。跡継ぎは男でなければならないと親戚がうるさくて。
でも産まれたのは女だろ。それに奈良は薬品に関しては長けているし、それを目的に俺に何かあった場合
男であった方が受ける被害が減るだろ?」
だから表向きは男として生活している。
「火影だって知らないんだぜ」
そう言ってニヤリと笑って。
「・・そんな大事なこと、俺なんかに言っても、良いってば?」
「良いさ、俺がそうしたかったんだし。だからお前も本当のこと話せよ」
「本当のことって、さっき言ったのが本当だってば」
どこか見透かすようなシカマルの視線に耐え切れず、再び視線を落とす。
その行動が気にいらなかったのか、チッと舌打ちが聞こえた。

「・・知ってるぜ?腹に九尾を宿し夜に舞う“緋月”サン?」
「っ・・!?」
機密事項に加え、暗部のことも指摘され、ナルトは思わずシカマルを仰ぎ見た。
「やっと俺の顔見たな」
満足そうに笑うシカマル。
「俺が調べ上げたんだ、お前のこと」
「・・なぜ・・・?」
「そんなの、好きだからに決まってるだろ」
そう告げれば、金髪は目尻まで紅くして。
「お前が俺のこと、俺と同じ意味で好きだってことも知ってる」
「それは・・シカマルの勘違いです・・・」
緋月のことがバレていると言うことは、もう演じなくても良いということで口調を元に戻した。
「勘違いなものか。明らか他の奴らとは違う熱を持った視線を投げるくせによく言う。
俺だってお前に惚れて10年だぜ?ずっと見てたんだ、お前の考えてることくらい分かる。
どうせ腹の九尾のことで俺や奈良家に迷惑がかかるとでも思ってるんだろ」
全てがシカマルの言う通りで、肯定するようにナルトは俯いた。
「それが分かっているのなら・・」
「分かっていて出した結論だ」

はっきりと言い放ったシカマルを、おそるおそる顔をあげ、見上げる。
その目があまりに真剣で、嘘を言っているようではなく。
「お前を俺のものにしたい。お前も俺を欲しいと思って欲しい」
目線を合わせるように屈んで。
「ナルトは俺が女だと知って気持ちは変わったか・・・?」
姿形が変化しようと、芯が同じなのだ、変わるはずがない。
ふるふると首を横に振って。
「俺だって同じだ。お前の腹に妖がいようと暗部であろうとお前を好きなことにはなんら変わらない」
「シカ・・・」

「俺のことほんとに好きなら、取れよ」
す、と手を差し出され、
「シカマル・・・馬鹿ですね」

そこまで理解していてなお、自分が良いのだと言って手を差し伸べてくれた。

そっとその手を包むように触れると、笑ってくれた。



「知ってる。俺、ナルトバカなんだ」















モドル