帰り道によく通る雑貨屋のガラスケェスには

愛しいあいつを模したかのような



蝶がある








プレゼント








帰宅途中にある雑貨屋の入り口には、ガラスケェスに様々なアクセサリーが並べられている。
黒いベルベットの生地の上に丁重に配置された煌めく装飾品。
値段は確認したことないが、結構値のはるものだろうことはわかる。
アクセサリーにも宝石にも興味はない自分が、つい見つめてしまうのは、
愛しい恋人の髪のようにきらきらと光を弾く金の蝶を模ったものだからだ。

任務の帰宅中、買い物の帰り、通るたびに目が向いてしまう。
どうせ自分には似合わない。
買ったって仕方ない。
わかってる。

自分が女らしくも可愛らしくもないことは知っているのだ。
どんな背伸びをしたってこればかりは考えを改められない。


「シカ?」
相当ぼんやりしていたのか、覗き込むようにナルトが見つめた。
今はナルトは緋月の、自分は本来の女の姿のため、頭ひとつ分高いナルトは屈んでシカマルの姿を映す。
「あ、悪い・・・」
気分でも優れないのだろうかと気遣うナルトに違うと笑う。
ガラスケェスがナルトの姿を映す。
足りない忍具を、隣の店で調達して戻ってきたのだ。
「何か欲しいものでも?」
じいときらきらと並ぶアクセサリーを目で追って行く。
「そんなじゃねーって」
欲しいものなんてない、とナルトの腕を引っ張るが、
「あ、あれなんて似合うと思うんですけど・・・あの金色の蝶の髪留め」
あなたの黒髪にきっと映える、とにっこり笑うナルトにどきりとした。

自分と思考が重なったことが嬉しくて、思わずナルトの顔を仰ぎ見た。
「一度試着してみては?」
ね?と笑顔で言われては、自分に拒否権などない。
見られていたのか、良いタイミングで店員がケェスの鍵を開けましょうかとやって来た。
丁重に手渡された髪留めは、小さいのにずしりと重かった。
つけたいのだが、扱いがわからず動けずにいると静かに出されたてのひら。
「よろしければ、俺につけさせてください」
「うん、まかせる・・・」
恥じたせいで少し紅くなった頬は、括っていた髪を解いたことで隠れてくれたと思う。
ゆるく梳かれる手櫛は心地良くて、いっそ眠っていまいたくなる。
できました、と鏡を後ろで支えるナルトに礼を告げていつの間にか閉じていた目瞼を持ち上げる。
黒い髪をバックに舞う蝶は、陽光を弾いてきらきらと輝いていた。
思わず見惚れる。
「よく似合ってますよ」
まっすぐに見つめられそう言われては、嘘だ、なんて言えずただ俯いてしまう。
これ以上顔が紅くなりようもないのに。
似合わない、こんなの、とは声にならず。
お世辞でも嬉しくて仕方がなかったのだ。

その様子にナルトは苦笑して、
「これいただけますか?」
「ナルっ?」
買います、と店員に告げるのに驚いて袖を引っ張った。
「いらねーって・・・」
恥ずかしいのもあるが、絶対値が張るはずのものを簡単に買わせられない。
「どうして?気に入りませんか?」
「き・・・気に入らない訳じゃ・・・それにコレ絶対高い」
そうなんですか?とシカマルの髪で煌めいている蝶についている小さな値札をナルトが手繰り寄せる。
「あ、これくらいなら全然大丈夫ですから」
「い、いいって・・!別に今日が誕生日って訳でもないし」
「誕生日と言えば俺、ジュースあげただけでしたね。あのあともっと良いものあげればよかったって
思ったんです。ちょうど良いじゃないですか」
ね?とにっこり微笑まれ、見惚れているうちにナルトは店員に支払いを済ませてしまった。
せっかくだからと値札だけ外して、そのまま付けて帰ることにして。

「よかったのに・・・」
帰り道、どういう表情をして良いのかわからずシカマルが唸る。
違う、ありがとうって、何故素直に言えないのだろうと自己嫌悪に陥る。
「要らなければ捨てても良いですから。単に俺がもらって欲しかっただけなんです」
超馬鹿、捨てる訳ないだろ。
「た、高かったんじゃねぇの・・・?」
「値段を気にしてたんですか?俺これでも里で二番目の稼ぎ頭ですから」
そうだった。
こいつ表でも裏でも質素な生活しているくせに金持ちなんだった。
殆ど自活で、むしろ使い道がなくて困っていたと言うところだろう。
それにはナルトの姿では物を売ってもらえなかったと言う悲しい理由もある。
「に、合わねぇもん・・・」
「特注で誂えたかのようにお似合いですよ?」
「お前の美的感覚ちょっとおかしい・・・」
「そうですか?」
「・・くっ・・・」
本気で首を傾げるナルトに思わず笑ってしまった。
「おかしい。俺を選んだ時点でな」
「あなたを選んだことは人生で一番自分を褒めてあげられることです」
「・・・お前って俺にベタ惚れ?」
からかう口調で問えば、「はい」と笑顔で返され何も言えなくなってしまった。


家に着くと、ナルトはそのまま夜の任務へと向かった。
縁側に腰を下ろし、辺りが黒に染まって行くのを見つめて。

愛しい恋人の帰りを待つことにする。



夜に金の蝶を乗せたまま、




言えなかった「ありがとう」を渡すため。



















モドル