真っ黒な闇に抱かれて思い出すのは

いつだって




愛しいひと







心、重ねた<中篇>








「上層部にお前のことがバレた。抹殺指令が下りている」

唐突に言い放たれた宣告に、言われた当人は持っていた任務報告書を落とす、
こともなく。
「・・・そうですか。こちら報告書です」
さして驚くこともなく普段通りの振る舞いで報告書を手渡すナルトに、綱手が肩を竦めた。

「わかっているのか?お前の話をしているんだぞ!!」
どうしてそんな澄ました態度でいられる!?と泣きそうな声で訴える綱手に静かに向き合う。
「・・・思いがけないできごとではないからです」
落としていた膝を伸ばし綱手を見下ろす形になるナルトは、今は暗部時の姿でいる。
外はもう白みはじめ、一日が始まろうとしていた。
明るくなって行く景色に、どこか寂しさを感じるのは、夜に思い人を重ねていたからで。
そのことの方がナルトの心に影を落とした。

「それで処分は何ですか?」
暗殺ですか?公開処刑ですか?
淡々と会話を進ませるナルトに綱手は眩暈がした。
「もう一度言うが、お前の、抹殺指令、なんだぞ・・・?」
単語に区切ってナルトを指差し訴える綱手を静かに見返すと、わかっている、と小さく言った。
「・・・ずっと、こういう日が来るのだと予想していましたから」
正直もっと早くに抹殺指令は下ると思ってました、と漏らす。
顔色ひとつ変えずにさらりと言ってのける姿にこの小さな子供に課せられた運命の重さに愕然とした。

「・・・もう指令は下っていると言ったろう・・・任務遂行者は・・・シカマルだ」
「・・・!」

明らかに顔色の変わったナルトだったが、その表情は読み取れない。

悲しい?
怖い・・・?

それとも・・・・・?


「遂行日は・・・?」
「期日は1ヶ月以内。いつ遂行するかは本人に任せてある」
「そうですか・・・」
ふと伏せられた、元は蒼のはずの茶色の目は悲しそうに揺れた。
しかし綱手には感じ取れる。
その感情が、自分の死が訪れる悲しみでも苦しみでもなく、自分の大切な者が友人である自分を
任務であるとは言え殺さねばならないシカマルを哀れむものだと言うことを。
「・・・・・・」
「安心してください・・・知らされたからと言って俺は逃げたりしません。これまで通りの生活をします」
本来なら自分の抹殺任務など知らされるはずもない。
綱手なりの優しさだと言うことをナルトは知っている。
黙ってしまった綱手を、安心させるように笑った。
「いっそ、逃げてくれれば良かったよ・・・」
逃げ切れるだけの実力があるのだから、どんな形であれ生きていて欲しいと願ってしまう。
「里人には辛い事実かもしれませんが、俺だってこの里の住人です。・・・ここで生きて死にたい」
「・・・そうか・・・ナルト」
では帰ります、と一礼して踵を返したナルトを呼び止めた。
「シカマルにはお前のことを話してある。緋月としての、お前のことだ」
「・・・任務遂行の材料としては当然ですね」
そういう意味で言ったんじゃない、と首を振る。

「本当のお前で、会ったら良いさ」

一瞬、茶が蒼に揺らいで、そして小さく笑ってナルトは空気に溶けて行った。
再び訪れた静けさに、綱手は大きく息をついた。







抹殺指令が下って1週間が過ぎた。

来月には確実に自分はこの世に存在しない。
その決定項に少しの恐れも感じない自分は、本当に化け物なのかもしれないと思う。
それよりもむしろ、

「待ち遠しい・・・」
ぽそりと漏らされた言葉は闇夜に消えた。

期日は一ヶ月以内、と聞いたがナルトは決行日を予測していた。
(おそらく・・・明日・・・)
シカマルならば偶然を装って任務帰りに出会うことなど容易い上に不自然でもない。
だからいつだって決行できるのだが、この一月で一日だけ暗部の休みがある。
そしておそらくは上層部のお膳立てであろう、その日は下忍での合同任務が用意されていた。
どこかで自分の最後を瞬きさえ忘れて見届けるつもりなのだろう。
それを思うとくつりと皮肉めいた笑みが漏れる。

「シカマル・・・」

早く早くと胸が鳴る。
なんと甘美な期待であろうか。

あなたに与えられる死ならば、どんな苦しい終わりでも喜んで受けよう。

最後にあなたの姿を目にやきつけて逝けるなら。

傍にいて、


くれるのなら――――――






そうずっと求めていたのは生きる理由ではなく死ぬ場所ばかり。


自分はずるい。
思い人にこんな苦しい思いをさせているのは自分のせいだと言うのに、自分で命を絶つことを選べなかった。
このひとを最後に目に焼き付けられるたなら、どれだけ幸せだろうかと。
自分の我侭を通してしまった。
最後だから、と。
今日この日のことを彼は一生背負って行かなければならないと言うのに――――――

「ごめん、なさい・・・」
心からの、謝罪だ。
すうと落ちた涙は静かに頬を伝ってシーツに染みを作った。















モドル