早く帰りたい

会いたい


今まで持ち得なかった感情に




苦笑した







闇に包まれた







珍しく入った長期任務で2週間ぶりに里に戻った。
今までは早めに任務を終わらせて、残りはのんびり近くの街で休養して行ったものだが
今回は完了するなり里に帰って来た。
夜になるたびに見上げる月と同じ色をした髪を持つ子供を思い出す。
小さい頃から物欲が薄かった自分をもう思い出せないほどに彼に関しては心の余裕がない。
会いたくて会いたくて、何故長期任務など受けてしまったのだろうかと悔やんだくらいだ。
こんなにも自分が彼を求めるとは思っていなかった。

「きつかった・・・」

いつもは腕にあるはずの温もりがないことが。

近くにあの笑顔がないことが。

自分がどれほど彼に落ちているのか、大事なのかを改めて思い知らされた。
早く終わらせたかったのに、期限の2週間ギリギリかかってしまい、今日やっと里に帰って来たのだ。
疲労で重いからだも、彼を思えば足取りは軽い。
これまでにはないほどの軽快な歩きで任務報告に向かった。


「黒月ただいま戻りました」
火影室内に本人しかいないことを気配で確認してドアを開ける。
「黒月かっ!?」
「・・・?はあ」
姿を見るなり立ち上がり、救世主が現れたかのように目を輝かせ駆け寄る綱手を訝し気な視線を送る。
「・・・何すか?」
ぱあっと快晴のような笑顔で自分を見る綱手が気味悪い。
「いや、お前を待っていたんだよ〜」
「・・・・・・・・・何か悪いもんでも食ったんすか?それとも今回はどこの賭博場で負けたんですか?」
彼女が自分を頼るとしたら薬品か賭け事の尻拭いかどちらかだろうと予測する。
「違う。緋月が・・・」
ぽろりと零れた名前にぴくりと反応する。
「緋月?何があった?」
「言っておくが、私は止めたんだからな・・・!」
そこだけは間違うなよ、と念を押され心配が水増しされて行く。
「わかったから要点を簡潔に話せ」
見据えると、実は、と重い口を開いた。





―――緋月が休まないんだ―――

最初は、はあ?と首を傾げたが、どうもナルトは自分が長期任務に行っている間一息も入れずに
任務へ赴いているのだと言う。
昼間の下忍任務が終わるとすぐさま暗部の任務を抱えて朝までにこなし続けているのだと。
おかげで最近は暗部の任務の半分以上を彼が片付けていて、いくら休めと言っても勝手に奪って行ってしまうらしい。
なまじ失敗しない分、助かるとこも相まって、言い負かされていたらしい。

(あいつは何やってるんだ・・・)
あいつのことだから自分がいない間の任務を合わせてこなしていたのだろうと予測する。
長期任務から帰って来た自分がすぐさま任務へ行かなくても済むように。
聞けばついさっき暗部の任務を終えて帰り、本日は下忍任務もあることからアパートの方であろうと
足を速めた。
予想通り、もう目の前にあるアパートにはナルトの気配がある。
ずっと求めていた穏やかな気配。
若干弱弱しい感じもしたが、無事であることにほっと息をつく。
軽い音をさせてベランダに着地すると、同じタイミングでガラリと窓が開いた。
「シカ・・・」
ぽかんと見上げる金髪は、やはり疲れが顔に表れていて2週間前よりも一回り痩せたようだ。
暗部で着る黒の上下を身に纏い、裾から出る手足の細さが頼りない。
「お前何やってんだよ・・・」
咎めるような口調に、嬉しそうに近付いて来たナルトは瞬時に凍りつき止まった。
シカマルだって別にナルトを苛めたい訳ではない。
抱きしめて普段言わないような甘く優しい言葉でもかけて抱えたまま眠りたいとさえ思っていたくらいだが、
やつれた姿に理不尽な怒りにも似た感情が腹の底から生まれる。
それがもし自分のためだと言うのなら尚更だ。

「綱手から聞いたぞ。俺がいない間、ちっとも休んでいないらしいじゃあないか」
「あ・・・シカ、帰って来たら、少しでも休めるようにと思って・・・」
やっぱりか、と視線を落とし溜め息が漏れる。
「・・・頼んでないだろう?」
「・・・・・はい・・・」
シカマルの言葉に、怒気に、ただでさえ悪い顔色がどんどん青ざめて行く。
喜んでもらえると思ってした行動が、逆効果になってしまったことに視線を彷徨わせる。
全てシカマルのためになるのだと思ったのに違ったことに涙が滲む。
僅かに震え始めた指先を隠すように後ろにまわす仕草さえも、シカマルに罪悪感を抱かせないため。
「ごめ、なさい・・・」
蚊の鳴くような声での謝罪に、シカマルの怒りも霧散する。
泣かせたかった訳ではない。
「悪い・・・お前を泣かせたい訳じゃないんだ。俺のために何かしてくれることは嬉しいが、
それでお前に何かあったら嫌なんだよ。流さなくても良い血なら流さなくて良い」
自分の胸くらいしかない身長をすっぽり収めて抱きしめる。
「お前に会いたくて帰って来るのに、お前がいなかったら意味ないだろ・・・?」
抱き込んでそのまま凭れていた窓を背にして囁くと、驚いたように見上げるナルト。
「ほんとに・・・?」
自分に会いたいと言ってくれた。
その言葉をもう一度聞きたくて疑問を投げる。
「月見上げるたびにお前を思い出した」
「・・・・・シカ・・・」
嬉しくて擦り寄るナルトに苦笑して頭をゆっくり撫ぜてやる。
いつの間にか止まっていた震えに安堵して、
「今日は下忍任務は休みだ」
「え?でも・・・」
「夜の任務は綱手に休みにしてもらった。お前は今日一日中休み!
俺と一緒に寝まくってごろごろする、明日の朝までな」
言いよどむナルトにきっぱり言い放つと、抱えなおして窓枠に足をかけ跳躍した。
首を傾げるナルトに、ここのベッドじゃあ狭いから本宅へ帰ると伝える。
自分で走ると身をよじるナルトに、俺が抱いていたいんだと譲らず、結局本宅へ着くまでずっと
シカマルに抱えられたままだった。

ようやく床に下ろしてもらえて息をつく。
「寝室で待ってな、着替えてくっから・・・ナル?」
ぽんと頭に置いた手を掴まれシカマルが振り向く。
「シカ、あの・・・もうひとつ、謝ることがあります・・・」
俯いたままのナルトを上向かせ、言葉を待つ。
「・・・さっきシカのためと、言いましたが・・・半分嘘です・・・」
蒼が揺れた。
「あなたが帰って来たときに楽であればと思ったのは本当ですが・・・半分は・・自分のためです」
自分がそうしたかったのだと金髪は言った。
「夜の任務は、闇の中ですから・・・」

あなたを思い出す

まるであなたが傍にいるようで

落ち着くのですと。

寂しくて夜の闇をシカマルだと誤魔化して、だましだましやって来たのだ。
思いがけない告白に、頬が緩む。
そうか、と小さく呟くのがやっとで。
「そんな嬉しいこと言うと襲うぞ」
「ほぇ・・?」
嘘をついたことを怒ると思っていたナルトには思いがけない返事に、きょとんと見上げると
何故か嬉しそうなシカマルの顔。
「予定を変更。まずは一緒に風呂だな」
どうせお前もまだだろう、と返事も待たずにナルトを再び抱えると風呂場へ向かう。

その日はナルトを抱え込んだまま眠りこけた。
普段は眠りの浅いナルトも、ここ連日の疲労からか次の朝まで目を覚まさず。

ぴたりと寄り添ったまま

まるで


会えなかった日々の分を埋めるように。



















モドル