ナルトは20歳、ナルト以外は皆13歳の下忍。
とゆう設定で。
嫌だなぁと思われた方は
コチラ
から戻ってくださいね。大丈夫な方だけお進みください。
美しいひと【1】
草むしりという家事手伝いの一環としか思えない下忍任務を終えて帰宅した影使いの子供は、
疲労を溜めこんだからだをなんとかシャワーで洗い流し、そのままベッドへ沈ませ睡眠を貪った。
母が夕飯だと呼びに来たような気もするが、結局目を覚ますことができず、肌寒さに子供はようやく目を覚ました。
窓を開け放しておいたのを忘れていた。
寝乱れた髪を手櫛で整え、まだ重い瞼を持ち上げる。
もう夏が終わる。
いつの間にか蝉の鳴き声も途絶え、しんしんと静かに星が瞬く。
夜はもう窓を開けて眠ると風邪を引いてしまうだろう気温になってしまった。
汗ばむ陽気は好きではないが、肌寒いとどこか寂しい気がして結局どちらも好きではないと思う。
ではどの温度が好きなのかと問われたら、特になく。
子供は若干、13歳にして、子供らしい答えを持っていなかった。
夏が好き?冬が好き?
不毛な会話を耳にしても、どっちもさして変わりない、と思ってしまう自分を幼馴染の女の子はつまらないとよく肩を落とした。
危険は少ないが、普段使わない筋肉が悲鳴を上げる下忍の任務。
関節の痛みに子供は息をついた。
このまま朝まで眠ってしまおうかと布団をかぶり直そうとしたとき、玄関が開く音がした。
気配を探ると、どうやら父親がいつもの顔馴染みを連れて帰って来たらしい。
自分もよく知る、幼馴染の父親達が、例によって任務後の飲み会を開くのであろう。
とすれば、飲み会はおそらく朝まで続き、その喧騒に自分は眠ることができないであろうことも予想できて、
子供は眉間に皺を寄せた。
(こりゃ寝るのは諦めるか…)
からだを起こし、伸びをして、途中だった本の続きでも読むことにする。
しばらく読んで下の喧しさを許せるほどの眠気が戻ればいい。
飲み会が始まって数時間。
いまだに衰えない騒ぎに、怒りを通り越して呆れてしまった。
週末買い溜めておいた本も今しがた読み切ってしまった。
実は読んでいた本はシリーズもので、次の巻以外は揃っているのだが。
古い本で既に絶版となっており、どの書店にも次の巻だけが見つからないのだ。
医学系の著書で、自分にはかなり畑違いのものではあったが、なんとなく手にとってみてついはまってしまった。
続きがあるのに、ぽつんとその間だけがない。
物語であるなら、いくらか想像で間を埋めることはできるが、専門外の本だとそうもいかない。
著者の考えの傾向はわかっても、こればかりは自分の知識だけでは賄えないものがある。
「はぁ…明日、少し遠出して探してみっか」
古い本だから、普通の書店よりは、古本屋に行った方が見つかるかもしれないな、と予定を立てる。
階下はまだうるさいが、どうせ明日は任務もない。
起きていても支障はないだろう。
ふうとベッドに仰向けになって、腹が冷えたような感覚に、夕食を抜いてしまったことを思い出した。
(何か残ってるかな…)
たぶん母がラップをして残してくれていると思う、が。
「や…親父達が酒のあてにしてるだろうな…」
かなりの確率できっと欠片も残っていないだろうが、何分自分はまだまだ成長期な訳で、
空腹に気付いてしまっては我慢するのは結構辛い。
なければ自分で作ればいいやと身を起こした。
下りると、客間から灯りが漏れていて、開け放された襖の奥で父親達が騒いでいる。
案の定、自分の夕飯は食べられており、予想していただけに怒りは湧かなかったが、思わず口癖は漏れる。
「あ〜、シカマルくんだ〜こんばんはぁ」
子供のように無邪気に挨拶してきたイノイチに、シカマルは、はぁと溜め息をひとつ。
「…どうも」
「なになに?こんなじかんにどうしたの〜?」
「…腹減ったんで何か作ろうかと」
あんた達が食っちまったからな、と嫌味は言わないでおいた。
「うんうん、せいちょうきだもんね!おなかすくよねぇ〜、あっそうだ」
ぽんと手を打ったイノイチの頭上で、マンガみたいな電球がぱっとついたのが見えたような気がした。
ちょっと待ってて〜と戻っていったイノイチをぽかんと鍋を持ったまま見つめる。
「ねぇねぇ〜、シカマルくんおなかすいたんだって、なにかつくってあげてよ〜」
(げ、めんどくせぇことになる…!)
酔っ払った父親がどんな物体を作るのか知れないが、絶対美味しいはずがないと頬が引きつる。
「ちょ…」
「いいですよ」
止めに入ろうと客間に寄ろうとして聞こえた声に足が止まる。
知らない声。
まだ若そうな、落ち着いた男の声がした。
気配などしない。
寝ている自分とヨシノに気をつかったのだろうが、父親達がこうもうるさくては意味はないのではないだろうか。
イノイチに手を引かれ台所に現れたのは、
里では一般的な黒髪に茶色の瞳の青年であった。
しかし、極上の。
整った顔だちに心臓が跳ねた。
黒いラフな上下は、動くたびにからだのラインを現わして、細い腰に目がいく。
「えっと、初めまして…ですよね。緋月と言います…シカ、マル君?」
でしたよね?と小首を傾げて問う青年に見惚れた。
「はじめ、まして…」
目の前にいるのにまるで存在しないかのように綺麗に気配を消し去る青年は、相当腕がたつのではないかと思う。
「すごくおいしいから〜すきなのつくってもらいなね」
へらりと笑って再び客間に姿を消したイノイチを見送って、緋月と呼ばれた青年が振り向く。
「すみません」
「…は、え?」
見惚れたままだったシカマルの耳には声が届いておらず、聞き返す。
「こんな深夜にお邪魔してしまって…うるさくて起きてしまったんでしょう?」
丁寧な物腰と口調、気遣う言葉。
年齢だって父親達とだいぶ違うだろうに、一緒にいるのが不思議でならない。
「や、いつものことだから。あれがうちの日常」
シカマルの言葉に、なるほど、とくすりと笑う青年から視線が外せない。
「さて…何が食べたいですか?シカマル君」
「何でも…まかせる。あと、敬語でなくていいし君とかつけなくていい」
どこか距離を置かれた気になるし、そもそも年下の自分に敬語を使うのも気になる。
「じゃあ、えと、シカマル…?」
どくり、と心臓が大きく鳴った。
呼ばれただけで、おかしな高揚感が生まれた。
「うん」
満足気に笑むシカマルに、青年は少し困った表情で笑った。
「口調だけは、これが俺の常なので許してください」
「…わかった」
シカマルの返事に青年はにこりと笑んで、冷蔵庫お借りしますねと背を向けた。
その背の後ろで、子供がひとり顔を紅くしたことも知らないで。
既に夜が明け、窓の外はうっすらと明るくなってきていた。
遅過ぎる夕食というよりは、早過ぎる朝食だ。
「お口に合えば良いんですけど…」
できあがった食事は魚の煮付けを中心の、自分が好きな和食。
任せると言ってしまったが、子供だからとオムライスなど作られたらちょっと嫌だと思っていたが要らぬ心配であったようだ。
「すげぇ旨そう、いただきます」
いつの間にか客間は静かになっていて、今度は鼾の合唱が始まっていた。
「うま…」
ひと口目、漏れた称賛に、青年はほっと息をついた。
「なんかうちの味に似てる」
「かもしれませんね。ヨシノさんに何回か料理を習ったので」
「そうなのか?」
いつの間に。
自分は今日初めて会ったが、既に何度かこの家を訪れていたのだ。
飲み会が開かれるときは、絡まれるのが面倒なので極力下りて来なかったし、これほどまでに綺麗に気配を消されては
気付くはずもない。
こんなことなら、時々でも顔を出していれば。
(って何で後悔してんだよ…)
こんな気持ち、知らない。
残さず食べ終えたシカマルに笑んで、ご丁寧にお茶まで淹れてくれた。
「朝になっちゃいましたね」
外では雀の鳴き声がしていて、とうに朝日は昇っている。
窓から差し込む陽光が青年を照らし、気付かなかった肌の白さに息をのむ。
「あんた肌、白いな…」
「昔から、焼けないんですよ」
ちょっと不満気な子供のように口を尖らせる。
「ふぅん…その姿、変化じゃないんだ?」
シカマルの言葉に、しまったと青年が目を見開いた。
「…変化、してますよ。肌の色は変えてませんが」
今度はシカマルが驚く番だ。
「へぇ?そんなこと今日初めて会った俺になんか話しちゃっていいわけ?」
「いいですよ。全部を見せている訳ではないし…シカクの家族にあまり嘘はつきたくないですし」
絶対的な信頼が見える表情に、じわりと黒い感情が滲む。
(なんだこれ…)
さっきからおかしい。
目の前の青年に会ってから、出会うのが遅れたことに後悔したり、父親を信頼する様子に苛ついたり。
(………ちょっと待て)
なんだよそれ。
それって、
「ではそろそろお暇しますね」
「え…」
いつの間にか食器も洗い終え、席を立つ青年。
「もう…帰んのか?」
「もうって、もう朝ですよ?」
むしろ居過ぎましたよね、と苦笑して。
「緋月は、どこに住んでんの?」
「…死の森の奥地に」
少しだけ考えて、正直に答える。
「そんなところに?」
「はい」
街から離れてひっそりと暮らす理由があるのだろう。
色々と、秘密が多そうだ。
「また、来るだろ?」
「…ご迷惑でなければ」
誘う言葉に陰る表情の裏には、ひとには言えない理由があるのだろう。
「そんなことねぇよ、近いうちにまた来いよ」
「はい」
はっきりした誘いの言葉に、青年はまるで泣きそうな顔で笑った。
それでは、と丁寧に頭を下げ、そのまま景色に溶け込むかのようにして青年は消えた。
幻であったかのような気配のなさ。
けれど確かに自分は彼の作った食事を食べて腹も満たされていて。
彼の洗った食器がシンクにある。
静かな笑みも細いからだも脳裏にしっかりと焼き付いている。
確かな存在。
自分は初めて恋というものを体験した。
モドル