拙い表現ながらも明らかな性的描写が含まれますので、嫌悪感がある方は
コチラ から戻ってくださいね。大丈夫な方だけお進みください。





美しいひと【7】








気がつくとそこは
仄暗い、見知らぬ部屋だった。


からだを起こそうと思ったのに、まるで力が入らない。
ひどく眠くて、気だるくて、からだが重い。
僅かに動かせたのは、指先と視線だけ。


(喉…渇いた…)

視線を天井から横にずらすと、こちらもまた見知らぬ襖。
格子の嵌った窓からは、高く昇った月が雲の隙間からのぞいている。

今は何時なのだろう。
そしてここは一体どこなのだろう。
どうして自分はここにいるのだろう…。

湧き上がる疑問は、鈍くなっている思考ではまとまりもせず、答えなど出せなかった。

ふと、どこからか食事の匂いがした。
どこか甘い、あたたかな匂い。
町でいつも羨んだ匂い、だ。

その匂いを連れて、見知らぬ気配が近付いて来る。
反射的に身構えようとして、その動きに走った激痛に言葉にならぬ悲鳴が上がった。
からだ中のいたる箇所が痛む。
特に頭に響いた鈍痛は耐え難いほどで、意識が一瞬飛びそうになった。

「気付いたの!?」
痛みで布団に突っ伏した自分に近寄った人物を、痛みに眉を寄せながら見上げる。
顔色を見るためだろうが、覗き込まれてできた影に、からだは痛みではない悲鳴を上げた。
「ひ、ぎ、っやぁあぁああああ!!!」
目の前の人物が、誰かと重なる。
その人物さえ、自分は誰かも知らないのに、恐怖と嫌悪で震えが止まらない。
折り曲げたからだに痛みがはしるが、それよりも恐ろしかったのは、思い出す自分の肌を這う何かの感触。
「ナルちゃん…!」
「い、やぁっ嫌っ、離して、ぇえっ」
伸ばされた手を払い、頭を抱えるようにして蹲る自分の名を、目の前の人物は悲痛な声で呼んだ。
そして、そっと包み込むようにその人物は胸に頭を抱え込んだ。
思わず息をのんだナルトを、より一層強く抱きこんで。
「ひ…」
「大丈夫だから…!」
初めて体験する柔らかな感触に、悲鳴がしだいに止んでいく。
その人物が女性であることに、やっと気付く。
「大丈夫、大丈夫…」
香水ではない、甘い匂いをさせて、女性はゆっくりとナルトの頭を撫ぜる。
止まった悲鳴の代わりに、今度は安堵による涙が溢れてくる。
拭ってあげようと伸ばした指に、ナルトはびくりとからだを揺らした。
その姿に心を痛めながらも、女性はできるだけ穏やかに笑んでもう一度指を伸ばした。
「ほら泣かないで…かわいいおめめが真っ赤になっちゃう」
拭っても拭っても溢れて止まない涙は、綺麗で綺麗で思わず溜め息が漏れるほど。
「もう大丈夫…」
「ぅ、あ…っ」
嗚咽が止まるまで、女性はずっと頭を撫ぜる手を休めなかった。
「私達はあなたの味方だからね…これからずっと、あなたの味方…」
私達、という言葉に顔を上げると、襖のところに、顔に傷のある男が心配そうにこちらを見つめていた。
「俺もそっちに行きたいんだが…」
「ダメ」
そっとお伺いをたてる男に、女性はきっぱりと断りを入れた。
「あんた顔怖いんだから、ナルちゃんが怯えちゃうでしょ」
「俺だって心配なんだよ〜…ちょっとだけ!ちらっと顔見るだけ!」
「ダメ」
心配でおちおち眠れないのだと訴える男の表情は、確かに寝不足で疲れているように見えた。
それを承知でダメだと間髪入れずに答えた女性とのやりとりに、ナルトの涙はいつの間にか止まっていた。
そのわずかに緩和した表情を見て、女性はほっと肩の力を抜いた。
「私はヨシノ、あの顔の怖いのが旦那のシカクよ、ナルちゃん」
「…よ、しの、さん…し、しか、く…さん…?」
もう大丈夫ね、と頬を優しく撫ぜて、ヨシノと名乗った女性が自己紹介をする。
名前を反復すると、ヨシノは、そうよ、と笑った。
「ぁ…どう、して…」
「知ってるのかって?実は私達、あなたの…」
自分の名を知る自分達が不思議なのだろうと、自分達がナルトの親と親しかったのだと説明をしようとしたが、
ナルトは、違う、と緩く首を振った。
「…?なあに?」
「た…助けて、くれた…」
「え…?」
「てあ、て…を…」
移ろう視線は、からだ中のあちこちに施された手当ての跡を辿る。
手当てにはきつめの麻酔を打った。
覚束ない動きと、まわらない舌で、ナルトは懸命に疑問を口にした。
「お、れ…きつね……さと、の大人、は…皆、俺のこと、が…嫌い、…」
ちらりと腹を見て、ナルトは俯いた。
今もなお、からだ中の傷が癒えていくのを感じる。
この状態が、決して普通ではないことくらい、もう知っている。

もしかして、ヨシノとシカクは自分が九尾の狐のイレモノだということを知らずに助けたのではないかと。
紡ぎだされる言葉に、ヨシノとシカクは言葉を失った。
そして湧き上がる、どうしようもない憤りとやるせない気持ち。
「…多くの里人は、間違ったことをしていると、私は思うわ。あなたは何も悪くないのに…」
傷に障らぬように手当ての跡をそうっと撫ぜて、ヨシノは悲しそうにそう呟いた。
「私達は、あなたが好きよ。出会ったばかりで何を言うのかと思うかもしれないけれど、本当よ」
もっと早く、あなたに会いに行くべきだったとヨシノは唇を噛んだ。
火影邸で優しく守られているのだと過信していたのだと。

「あなたが大好きよ」


―あんたが、好きだよ


包帯の隙間から見たヨシノの笑みが、誰かと重なった。


―好きだよナル、大好きだ


―これだけ好きなら愛だよな?





ああ、この声、は―――――





「…ル、ナル」

ぺちぺちと、軽く頬を叩かれた。
「ん…」
「大丈夫…じゃ…ねーよな、悪ぃ」
重い瞼を持ち上げれば、バツが悪そうに眉をハの字にしたシカマルが、見下ろしている。
「ぇ…?」
何が大丈夫ではないのかわからなくて、身じろげば、
「っあ…?」
下腹部に感じた鈍い快感に声が上がる。
「あー…わり、まだ…」
「やっ…」
僅かなシカマルの動きに合わせて、ナルトのからだがびくりと跳ねる。
繋がったところから腹の奥に響く快感に、蒼が深い色に変わる。

窓からのぞく月はまだ高く、まだ夜中のようだった。


(…あ、あ…そうだった…)

目の前には一糸纏わぬシカマルの姿。
立てられた自分の膝を割って、心配そうに見下ろしている。

好きだ愛していると、こちらがもう恥ずかしさで死んでしまうかと思うくらいに伝えられ。
もう触れていないところなどないくらいに、からだ中を口づけられ。
果てたところで、意識を手放してしまったらしい。

きっとまだ頬は紅いままだ。
思い出してしまって、見つめられていた視線に耐えられず逸らすと、一瞬見えたシカマルの寂しそうな表情。
「そういうふうにされると、ちょっと悲しいんだけど…」
「ぇ、あ…ん、」
声さえ寂しそうに聞こえて、思わず見返すと唇を塞がれ、驚いて開いた隙間から舌を捕らえられる。
「あ、は…う」
息を吸おうと身を捩ると、その動きに合わせて繋がった下半身から鈍痛が共に甘い快感を連れてくる。
頭ひとつ分、自分より背が足りないとか、7つも年が下だとか、そんなことはとうに忘れてしまって、
いいように喘がされていても、なんだかひどく幸せで。
唇を名残惜しそうに離され、頬に口づけられながら、ぎゅう、と胸に抱きしめられる。
細く、まだ発展途上のからだはしかし、しっかりと鍛えられていてしなやかな筋肉がつき始めている。
いずれ背も体格も自分などすぐに追い越すのだろう。
「なぁ、どうよ…少しは、伝わった…?」
「ぅ…は、い…」
こんな感覚も経験も、自分は一生得ることはないと思っていた。
目の前の少年は、その全てを自分に与えてくれた。
「俺のこと、恋愛対象として、見れそうかよ…」
少しばかり小さくなった語尾に、シカマルの不安が感じられ、ナルトは思わず頷いた。
同情じゃあない、知り合って、触れ合って、生まれた名前のない感情は、もうはっきりとしていて。
あの、と小さく聞こえた声にシカマルは耳をすます。
「す、きって言われて、嬉しぃ、とか…触れられ、て、気持ちい、とか…」
「うん」
歯切れの悪い言葉は聞き取り辛いけれど、これ以上ないくらいに紅く染まった頬に、
今から言ってくれるのだろう言葉に、シカマルは嬉しくて堪らない。
相槌を打って、先を促す。
「笑ってくれると、自分も嬉しく、なった、り…する」
「うん」
「こ、れ…が“好き”…?」
「はは、それってもう“愛”だろ」
恥じる金髪が可愛くて愛しくて、もう一度口づけた。
「俺、まだあんたよりずっと弱くて、足りねー部分とか、色々あると思うんだけど、」

いつか追いぬいて、

「あんたを…ナルを誰より好きだって自信はあるんだ」

頼ってもらえるくらいになって、

「頑張るから、俺の傍にいろよ」

昔の傷なんてきっと忘れさせて、

「ナルがいたら、どんなことだって、頑張れるから」

みせるから。

まっすぐに見つめる漆黒に、肯定の意を示すように唇を寄せた。
それに応えるように、そっと合わせる。

幸せだと呟いた金髪は、月明かりに照らされ、最高に魅惑的だった。



自分よりも頭ひとつ分大きくて、強い想い人は

綺麗で可愛い、この世で最高に



美しいひと











モドル