哀詩【2】
「ん…」
肌寒さに覚醒を促され、重い瞼を持ち上げる。
ぼんやりと視界に広がったのは、いまだ見慣れぬ天井だ。
なんとなく目が覚めてしまって、シカマルはだるいからだをゆっくりと起こした。
周りには、解部の仲間達が雑魚寝をしており、寝惚けた隣人がシカマルの布団を奪っていた。
寝ることに貪欲さを発揮するシカマルは、少しばかり腹が立って無言で奪い返してやった。
外はまだ暗く、朝と呼ぶにもふさわしくない。
窓に映る月を見て、ある人物を思い出した。
そして歪んだ眉に、はっと息を呑んだ。
最近、自分がおかしい。
シカマル達解部の数人は、里外任務としてある大名の屋敷に寝泊りしている。
任務内容は、主のいない屋敷内の捜査と、屋敷から出てきた大量の巻き物の解読。
何かよろしくない実験をしていたらしいその屋敷の地下には、大規模な研究所が設けられており、
そこから到底数日では終われないほどの実験記録が出てきたのだ。
薬物関連も多数見つかっており、医療科学班からも数人ヘルプとして来てもらっている。
持ち運ぶのも面倒だし、研究所として扱われてきた地下には設備も、休む部屋も充分にあることから、
里へと持ち帰るのは情報と最終的な証拠のみ、他の実験記録や暗号はここで寝泊りながら進めることとなった。
そして始まった長期任務は、今日で2ヶ月になる。
ふと見上げた窓から、淡く光る蝶が一匹舞い込んできた。
シカマルの元へと寄ってくるその蝶が何なのかを理解して、舌打ちした。
そして自分の今した行為に、シカマルは唖然とする。
「また…」
やってしまった。
おかしい。
自分の身に起きている、不可解な変化。
この頃、それが顕著に現れてきている気がする。
蝶は自分の周りをひらひらと舞って、シカマルが僅かにチャクラをのせて触れると一枚の紙に形を変えた。
送られてきた式は、恋人であるナルトからだ。
この時間に届いたということは、夜の任務帰りに送ってくれたのだろう。
中には短いが、自分への労わりと独りの寂しさが綴られている。
離れている間、何か起きてはたまらないと、シカマルから言い出した約束を、
あの金髪は律儀に守っているのだ。
そう、言い出しのは俺。
けれど、今自分はひどく矛盾した最低な気持ちを持っている。
始めの数週間は、シカマルからもちゃんと送り返していた式は、今では殆ど返していない。
怪我をした訳でも、式を返す暇がない訳でもない。
最初はなんとなく、本当に何気なしに、そう、気がのらない。
そんな気持ちだった。
それがだんだんと億劫だと思うようになり、自分から取り付けた約束にも関わらず理不尽な怒りまで感じるようになっている。
本当にどうしてしまったのか。
だって俺は、ナルトが好きで好きで仕方なくて、
度を越えた愛情を注いできたじゃないか。
それが、今じゃ憎しみとも呼べるような感情が生まれてきている。
今が長期任務で良かった。
本人を目の前にしたら、ひどい言葉を投げていまいそうで恐ろしくなる。
なあ、俺
どうしちまったんだ…?
モドル