中忍になって数ヶ月。
女の子だけを集めて特別講義が開かれる。



色任務





そろそろ日差しもきつくなり始め、地面に濃い影を落としている。
今日は日曜で門が開いているはずのないアカデミーは開放されていた。
以前より低く感じる門をくぐって、少女達がぞろぞろと中へ吸い込まれていく。
その中に待ち合わせていたのだろうか、そろってゆったりと歩む影3つ。




「久々よねー、こーやって登校?するの」
「ほんと、また経験するとは思わなかったわー」
「な、なんか懐かしい、ね・・・・・」


ヒナタの言葉に2人も頷く。
たまにだとなんだか楽しいとイノ。
短く揃えた桜色の髪をいじりながらサクラが感慨深気に笑う。

「でもとうとうこの日が来ちゃったのねー・・・」
「うん、他人事と思ってた節あるもんね」
「き、緊張する・・・」


3人ともにうぅ、と妙な呻き声を発してアカデミーに向かう。

「ちょっとサクラ、顔赤いわよー。忍ならそれくらい隠しなさいよー」
「あんたこそ脂汗出てるわよ・・・」
「わ、私・・・両方・・・」
『・・・・・・』


ぽんぽんとヒナタの背をたたき、大丈夫私もよ、と励ます。


今日は中忍になった女の子を集めてアカデミーにて講義が行われる。
忍であるなら避けては通れぬ「色」の道だ。
3人とも昨夜は眠れなかったらしい、目の下には黒いアイラインが引かれていた。


「今日ってさ、色専門の講師と中忍の女の子全員参加じゃん。その分他のひとに任務の
しわ寄せいってるらしいわー」
「そうなんだ、良かったー」
「・・・?何が“良かった”の・・・?」

きょとんと首を傾げるヒナタにサクラとイノが笑う。
「だって、今誰か知ってる野郎にでも会ってみなさいよ!寝堀葉堀聞かれるの目に見えてるでしょー」
「そうそう、キバとかうるさそうよね」
「・・・うん」


ヒナタは相当緊張しているのか、いつものように「そんなことないよ」とフォローする余裕もないらしい。
聞かれたところで色任務のための講義に行くのよ、なんて平気な顔して言える自身が皆ない。


「ナルトなんて『イロ任務ってなんだってば?』って言いそうなんだもん」
「うわ、タチ悪いわねそれ」

無邪気に聞かれても困る難儀なモノだ。


「みんなそろってどこに行くってば?」
『きゃあっ!!!!!!!!!!!!』


急に背後に感じた気配と声に3人の悲鳴が響き渡る。
ひっと逆に驚いて声をかけた人物が1歩後ずさった。


「ちょっとー!びっくりさせないでよねー!!!」
「そうよナルト!もっとそっと声かけなさいよ!」

「・・・や、こいつにしてはおとなしめに声かけてたぜ・・・」

サクラとイノの勢いに押されつつ、フォローにまわったのは、

「あんたもいたの、」

シカマル、と呼ばれて黒髪の少年が金髪の少年の横に並ぶ。

「あんた達今日任務はどうしたのよー」
「今日は休みだってば!」

シカマルも頷いて、これから二人で昼食をとるのだと言う。


「サクラちゃん達はどこ行くの?」
『えっ・・・』

きょとんと首を傾げて聞く少年のなんと無邪気な質問か。
一様にだまって、まあちょっと・・・と答えを濁す。


「サ、サクラちゃん、イノちゃん、時間・・・!」
「やば!」
「てことでまたね―――!」

予鈴が鳴っているのに気づき、風のように視界から去った少女達を見送って、はあ、と溜め息を漏らす。

「なんだありゃ・・・」
「今日は恒例の“色講義”なんですよ」
辺りに人気がないのを確認して、ナルトが素の話し方でシカマルに教えた。
「そんなんあんのか」
「はい、色専門のくのいちを講師に招いて、中忍になった女の子達を集めて講義を開くんです」
「へーぇ・・・」
さして興味を引く話でもなかったな、とぼんやり空に浮かぶ雲を眺める。
それを知っていてさっきの質問はかわいそうだったかとも思うが、“ナルト”なら
ああいうふうに聞くのが一番自然だと思っての行動だった。


「そう言えば、イノが俺達が今日任務あるはずみたいな口調だったが・・・」
「講義が開かれる今日から3日ほどは、彼女達の任務を他の下忍・中忍が受け持ちますからね」
そのことを言っていたのでしょう、と。


人気のない路地に入ると瞬身で死の森の奥に建てたナルトの本宅に移る。
今日は珍しく昼の任務もなく、二人でのんびり過ごそうかと思っていた。
太陽の光を反射してきらきらと木々が煌めいて、足でなめした道を進むと2階建ての家が見える。

「俺もお前も今日は休みだけど大丈夫なのか?」
サンダルを玄関で脱ぎ捨てシカマルが問うと、先に部屋にあがったナルトが冷えたお茶を手にして戻ってきた。
「おそらくは。確か今日はそれほど件数もなかったはずですし・・」
どうぞ、とお茶を渡して手を顎にあてて考えるポーズをとる。
「“緋月”としても任務は入ってなかったはずです」
そうか、とコップに口をつけようとしてピタリと止まる。
「ちょっと待て。なんで緋月が出てくるんだよ」
中忍・下忍の任務を火影直属の暗部がやる訳がない。
あるとしたら“ナルト”に来るはずだ。

イヤな予感がした。

「・・・まさかとは思うが・・・お前、」
「なんです?」

「・・・・・・色なんて、やってないよな・・・?」
「たまに、ありますけど?」

それが何か?と不思議そうに応えるナルトに、眩暈がした。
これか青天の霹靂というやつは。
今の自分に一番似合う言葉を探してみたりして、シカマルの中では傍目からはわからぬほどの面持ちで、
動揺していた。
同時に暗い感情が滲み出て来る。
ナルトに甘いあのジジィがまさか色任務などよこす訳がないと高をくくっていた自分に腹が立つ。



「ほんとは今日、緋月として講師に呼ばれていたんですけど、今回はヒナタもいますし
変化してもばれる危険性があったので辞退したんです」
おかげで久々に休みがとれて良かったです、と。
シカマルの様子がおかしいのにも気づかずナルトが笑う。
「まあ内容が内容だけに断りたかったのでいい理由になりました」


「それに色と言っても俺の場合・・・」


こいつは、


俺の気も知らないで



何も知らないお子様だと思っていたから


「あ、もうこんな時間ですね。シカマル食べたいものありますか?何か作ります」


ずっとずっと抱きたくてたまらない欲求をひた隠して


「今日は少し暑いですし・・・何かひんやりとした・・・シカマル・・?」


我慢に我慢を重ねて


「聞いてます?」


ゆっくり時間をかけて自分を覚えさせて行こうとしていたのに


もうお手つきだったってか?






笑わせるぜ






「・・・シカ・・?」


「もうやめる」
「え?」

何を、と言い切る前に視界が黒い影に包まれ、一瞬、





暗く笑うシカマルを見た。














       ***










「・・・すみませんでした」
「・・・・・・・・・・・・」



午前1時。
とうに日が沈み、月明かりだけが照明の暗い部屋に頭を下げる影ひとつ。


「・・・これって暴行罪と言うんですよ・・・」
「・・・悪かった」

わかってますか、と掠れた声で金髪がじいと向かいで目をそらす少年を見据える。
さきほどシカマルの勘違いが発覚してやっと落ち着いたところだった。
ナルトの色任務とは、本番なしの幻術で行うものだった。
初めは感触を覚えさせるために多少からだを触らせたりもするのだが、
そののちは幻術で自分の好き勝手な妄想に浸ってもらうのが常だった。

「すぐに言ってくれれば・・・」
「口を開く前にからだの自由を奪って影で絡めて、チャクラも煉れないように細工して
心話さえもさせてくれなかったのは誰でしたか」
「・・・俺?」


口は減らないが普段の横柄な態度も見られず、眉も下がりっぱなしの彼に本気で謝罪されているのは感じているのだが。


「いきなり自由を奪ってあんな・・」
あんなこと、と声にしてしまって、首筋まで赤くなる。
とろりと溶けた目にはいまだに水分が溜まり、赤く濡れた唇、どこもかしこも熱が下がらずナルトは唸った。
肌に直接シーツをかぶり、服を着る気力も残っていない。
だるいからだを起こす気にもなれず、ベッドに沈みながらシカマルを睨む。

そんな紅い顔で睨まれても可愛いだけだと考えていたのがばれたのか、
「・・・反省してます・・?」
「勿論」

ばれても自信満々で即答するシカマルにはあ、と溜め息が漏れた。

「・・・せめてひとことでも・・・」
抱きたいと言うなら望むままに自身を差し出す気持ちを持ち合わせていたのに。

「・・・悪かった」

ゆるりと頬を撫で上げて、きゅうと抱きしめてやればまだ力の戻らない両手で抱きしめ返してくる。
そんな仕草でさえ愛しくてたまらない。
末期だな、と苦く笑って。

腕の中の人物には悪いことをしたが後悔はしていない。

いつかは手に入れようと思っていた。
それが幾分か早くなっただけだ。
これから念入りにじっくりと身動きがとれないくらいに嵌らせてやるつもりだ。
にやりと口端を吊り上げ、人相とは逆に程遠いほどの優しさで抱きしめてやる。
ナルトがこういうのを好むことを熟知して、髪をすいてやったり頬を撫ぜたりして甘やかす。

そのうちうとうととナルトの頭が揺らぎ始める。
手にはきゅうとシカマルの服の端をつかんだまま。
それを見てシカマルは笑った。

もっと


もっと嵌ってしまえ


俺のいるところまで堕ちてこい



「そうだ、明日にでも“警告”しに行くか」
本番がないから良いという訳ではない。
2度とそんな任務が来ないように。


その翌日火影室には黒髪の襲来を受けた老人がぐったりと机に突っ伏していたらしい。














モドル