触ったら折れそう
抱きしめたら壊れそう
思いきり愛をやるときにはどうしたら良い?
媚薬
死の森の中に頼りない足取りで彷徨う影がひとつ。
ふらふらと、時折木の幹に躓きながらも、目的地へと向かう。
怪我はないようだが、肩で息をしている。
「くそ・・っ・・・」
自分を抱きしめるようにしてずるずると崩れ落ちるからだに苛立ちが募る。
こんなことなら無理してでも火影邸に戻って綱手に解毒を頼めば良かったか、と今更愚痴る。
自分でなんとかしようと式だけ飛ばして帰って来たのだ。
手足にずっと微弱な痺れが続き、それでもやっと見えた自宅に安堵する。
しくじった・・・。
最後に殺したやつが吹き矢を使っていた。
毒のようには見えず、何やら甘い匂いがするとは思っていたが・・・。
どうやら即効性の媚薬だったらしい。
彼らは大型な人身売買の組織であったから、そういう物を所持していてもおかしくはない。
ただ戦闘時に使用するとは思っていなかった自分が甘かったのだ。
熱が下がらないからだを引きずって、家を囲むように張ってあった結界を解除する。
ここはシカマルの本宅。
半分以上の部屋を資料室と、趣味と実益を高じたラボとして使っている。
とにかくこの熱を何とかしなければ、とラボに向かって歩き出す。
「シカマル・・・?」
少し高い子供の声。
見上げると、月に照らされて金髪がきらきらと光っていた。
シカマルの様子がおかしいことに気付き、ひらりとベランダから降り立つ。
「お帰りなさい・・・どう、したんですか・・・?」
様子のおかしいシカマルに、ナルトが近寄る。
いつもなら嬉しい出迎えも、今は内心舌打ちが出る。
そうだ、今日は珍しく夜の任務はないから待っていると言われていたのだった。
降り立った白い素足を見てなおさら溜め息が漏れた。
風呂上りなのだろう金髪は、しっとりと濡れて蜂蜜色。
頬もピンクで唇もいつもより紅く妖艶に見えるのは、薬のせいだろうか?
(あーくそ・・・今までの我慢が無駄になっちまう・・・)
心配そうに覗きこむ表情に、傾げた首筋のしなやかさに、折れてしまいそうな細い腰に。
何より自分の胸ほどまでしかない背丈の彼は8つも年の離れた子供なのだ。
いくら色気を感じても無邪気に肌を見せてもたおやかな仕草をしたとしても。
今はまだ手が出せない。
だって犯罪だろ。
変態だろ。
何よりこんな小さなからだ、抱きしめるだけで折れそうなのに。
自分を受け入れろだなんて言える訳がない。
大事にしたいんだよ優しくしたいんだよ嫌われたくねぇんだよ。
そんな思いがいとも容易く霧散しそうなからだの疼きに涙が出そうだ。
「シカマル・・?毒ですか・・!?」
話しかけても反応のない様子に異変を感じ、素早くからだを確認し始め、
唯一肩にあった矢傷から推測を立てる。
傷口は少し紅く腫れている程度で化膿止めくらいで済みそうな軽いものであった。
「や、毒、ぁなくて・・・びや、く・・・」
「媚薬・・?」
薬のせいでいつになく舌ったらずで話すシカマルに不安を覚える。
早く中へ、と小さいからだに肩を貸してもらい、ラボの中へと連れて行ってもらう。
「・・・っ・・ふ・・・」
ちょっとした触れ合いさえも快感に変わる。
嗅ぎ慣れたはずのシャンプーの匂いにさえくらくらする。
「薬・・・!どれですか?取ってきますから・・・」
部屋の中はいくつもの薬品棚が並び、しかし普段邪魔してはいけないと思ってこの部屋に
入ったことがなかった。
こんなことになるのならどこに何があるかくらい聞いておくべきだったと後悔する。
「い、や・・・」
ないんだ、と唇だけで伝える。
「え・・?」
この薬の解毒薬は新規で作らなければないのだ。
こんなに効き目の強い媚薬はその辺で出回っているものではない。
震える手で必要そうな薬品を用意していくが、机に運ぶまでに半分以上を床に落とした。
ついでに周りにあった薬品器具もどんどん割って行く。
「シ・・・シカマル、俺が取りますからっ・・どれが必要か言ってください!」
見かねてナルトが前に立ちふさがる。
「わり・・・えぇ、と・・・」
ぐるぐると回る視界に酔いそうだ。
何が要るのか伝えようとも頭がまわらない。
さっき用意した薬品は何だったか。
何が要るんだっけ?
何をするんだっけ?
何を、作ろうと、してたんだっけ・・・?
目の前が白く霞んで思考が途切れた。
熱が抜けないからだが苦しい。
息さえ熱くてだるい。
ひやりと心地良い温度が額に当てられる。
(・・・ル・・シカ・・・!)
嗚呼、ナルトの声がする。
それに反応して意識が浮上する。
起きなきゃ・・・。
視界が開ける。
「シカマル・・・」
蒼い目を濡らして金髪が覗き込むように擦り寄って来た。
震えだけは止まったようで、ぎこちなくだが頭を撫ぜてやれた。
「良かった・・っ・・・全然目・・覚まさないから・・・!」
心配した、と安堵の涙を流すナルト。
ごめんと謝って抱きしめてやる。
「気分は・・・?」
「ん・・・さっきよか、随分良いな・・・」
舌の麻痺もとれてきている。
「さっき、火影様のところに行ったんですが、不在で・・っ・・シカマルが用意してた薬品調べて
本棚あさってっ・・・頑張りました・・・」
えぐえぐと糸が切れたように泣くナルトをあやしながら、ナルトが指差す方向を見ると
机の上には薬品と器具が散乱しており、ごっそり抜け落ちた本棚の周りには読み漁ったと思われる書物が
ばらまかれていた。
「お前が解毒薬作ってくれたのか?」
こくりと頷く。
ふと壁にかかった時計を確認すると、気を失ってから数刻ほどしか経っていない。
なまじ優秀で助かったな、と苦笑して。
ほんとにドベだったら気が狂って死んでたかも。
この短時間で容態と薬品の種類と足りない知識を資料から調べて作ってくれたのだから。
僅かでも間違えば大惨事だが、まあ助かったのだから良いか、と未だ泣き続ける背中をさすってやる。
ありがとな、と額に口付けて。
「シカ・・・ん・・?」
ナルトはベッドに寝ていたシカマルに覆いかぶさるようにして抱きついていたのだが、下半身に違和感を
感じて起き上がる。
何か硬いものがある。
不思議そうにをれが何なのか調べるように撫であげるナルトにシカマルが焦る。
「っ・・・ばっか・・っ・・」
「え・・?」
急に息を詰めたシカマルに首を傾げる。
「まだ完全には薬切れてねぇから・・・」
「えぇ・・・???」
全然わかりません、と首を傾げ続けるナルトにもしかして性教育もまだなのか?と不安になる。
「だから・・・」
「ふぇっ・・・?!」
言うより早い、とナルトの手を引っ掴んで自身の下半身を触れさせた。
「こーゆうこと・・・わかるか・・?」
「ぇ・・・?・・・・・・あ・・・・・・」
やっと理解したナルトは首まで真っ赤にして放してもらえない手とシカマルの顔を交互に見る。
その様子に苦笑して手を解放すると、
「だからさっさと俺から離れとけ」
「え・・?」
「まだ疼きは収まってねぇの。だいぶマシになったけど、このまま俺の傍にいたらお前食われるぞ」
きょとんと首を傾げ、見上げた蒼は濡れていたが涙は止まっていた。
紅く染まった目尻が色っぽいと考えていることなど夢にも思わないだろうな、と息をついて。
「シカマルどういう・・・んっ・・・」
言葉で伝わらぬナルトの唇を己のそれでふさぎ、くるりと体位を入れ替える。
驚いて抵抗さえ忘れていることを良いことに、歯列を割って舌を絡めとり口内を舐めあげる。
その感触にびくりと震えた反応にじわじわと得物を追い詰めるような高揚感が沸いてくる。
「んっ・・・んぅ・・」
上顎を舌でなぞって小さな口内を存分に愉しんで、その度にびくびくと跳ねるからだが愛しくて、
しかし上手く息のできないナルトを、名残惜しいが解放してやる。
「っは、ぁ・・・」
潤んだ蒼がさきほど流した安堵から来るものではない涙でしっとり濡れる。
「こーゆうことだから・・・離れとけって言ったんだよ。夜が明けるまでにはおさまるだろうから」
「・・・ヤです」
溶けやすくなっている理性と自制心を根性で押し止めて逃がしてやると言っているのに
どうして断るのだ、この金髪は。
訝し気に見るシカマルを、見上げて。
「こんなからだで良いなら・・・」
思ってもみない嬉しい申し出だが・・・。
「馬鹿、ちゃんとそのでかい目で見てみろ。体格差を考えろ。壊れちまうだろ・・・?」
「だい・・・じょうぶです・・・」
言ってナルトの自分より二まわりは細い腰を撫ぜる。
その感触に身じろぎながらも、強気に見つめ返してくる金髪。
「あのなぁ・・・」
この意地っ張りが・・・。
溜め息が漏れる。
「大事にしたいんだよ」
判れ、と見つめれば、一瞬蒼が揺れて唇と引き結ぶと腕をすり抜けて部屋を出て行った。
それを確認して、ばふ、とベッドに沈み込む。
「はぁ・・・」
どうすっかな・・・。
自分で処理するか・・・薬が切れるのを待っているくらいなら幾分楽になれる。
手のひらを握ったり開いたりして麻痺が完全に取れたことにほっと息をつく。
自己処理のために手を伸ばしたとき、
「シカマルっ・・・」
おとなしく出て行ったはずのナルトが瞬身で目の前に現れる。
「っ・・・どう、したよ・・・?」
思わず素でびびった自分は相当ヤラレているな、と少し悲しくなりながら。
「俺、充分にシカマルには大事にしてもらってます」
「は・・?」
ナルトが何を言いたいのかさっぱりわからない。
「俺のことを気遣ってくれる」
「あぁ・・・まぁ気付く限りは・・・」
そう思ったのが顔に出たのか言葉を追加する。
「だからこれ以上大事にしてもらわなくても良いです」
「・・・・・」
「シカマル・・・俺、さっきあなたのこと助けましたよね・・・?」
俯きながら、そっと何やら手に持っていたものを見せる。
「おまっ・・・それは・・・・・!」
その差し出したものに目を見開いて、
「今度はシカマルが助けてください」
悲痛な笑みで、手にしていた香水瓶のようなものの蓋を開け、一気に飲み干す。
「馬鹿っ・・・」
慌てて手を伸ばすが、量も一気に煽れば一息で飲み干せるほどのものなので既に時遅く。
「・・っ・・ぁ・・」
急に膝に力が入らなくなったからだを、崩れ落ちる寸前に抱きとめる。
ナルトが飲んだのはシカマルが所持していた媚薬。
依頼で頼まれたものが幾つかあり、その内のひとつだった。
こちらも即効性の媚薬で、普段から毒物を修行の一環で慣らしている忍でもなければ、
即急性の中毒で倒れて意識を失ってもおかしくないものだ。
すっかり力が抜けて顔を紅く火照らせているナルトを自分が寝かされていたソファに運ぶ。
大方シカマルの解毒薬の材料を揃えた際に薬品棚を全てチェックしておいたのだろう。
「何してんだよ・・・」
「・・うぁ・・・」
上手く息ができないのか苦しそうに首を掻き毟るような仕草を見せて熱を帯びた蒼で見つめてくる。
ナルトの言いたいことなどシカマルにはとっくにわかっていた。
自分に遠慮して遠ざける行為が悲しかったのだろう。
ナルトは自身のことを大事にしない。
いつでも他の誰かのために自分の身を削ることを躊躇わない。
今回だってそうだ。
だから助けた代わりに自分も助けろなどと、普段は決して言わない台詞を吐いた。
シカマルが罪悪感を持たないように。
「全くお前は・・・」
ナルトが自分を大事にしない分、シカマルが大事に扱ってやろうと思っていた。
でもナルトは、大事にされるより求めて欲しかったのだ。
そのことに気付いて胸の奥が熱くなった。
「シカ・・・ぁ・・」
伸ばされた腕を自分の首に回させて、
「もし壊れてバラバラになっても組み立ててくっつけてやる」
「んぁ・・・」
蕩けた蒼でシカマルを見れば、そっと頬を撫でられた。
「だから、良いか・・・?」
触ったら折れそう。
抱きしめたら壊れそう。
思いのままに抱いたらバラバラにしてしまうかもしれない。
それでも?
そうお伺いを立てれば、至極嬉しそうに笑うものだから。
そのまま理性を放棄して、自分もソファに沈んで愛しい子供のからだを抱きしめた。
モドル