金色の子供<1>





ぴたん。

ぱたぱた。

・・・そとはあめ。

暗い部屋の隅で小さな影がわずかに身じろいだ。
遥か頭上にある、子供の自分が両手を広げたほどの窓から聞こえる雨音を聞こうと身を起こす。

空気がしっとりしている。
肌を濡らすように周りの空気に水分が多いことに気づく。
くん、と意識して息を吸うと重たい雨のにおいがした。

「う・・・」
硬いフローリングにどれほど身を沈めていたのか。
ぎしぎしと軋むからだを叱咤して、壁をつたって立ち上がろうとして僅かに衣服が床にくっつく感触がして
見下ろすと、べったりと赤黒い染みが広がっていた。
血で汚れた床を、印を組んで出した小さな水遁で流し、血のついてない裾でこすると意外と見た目にはわからぬ
ほどにはきれいになった。

時々、今回のようなことが起こる。
火影の貼った結界に揺らぎを感じて自分に与えられてる部屋の入り口を見ていると、必ず誰かが手に得物を持ち
こちらへやってきて、その後は彼らの気が済むまで暴力に耐える。
最初は助けを呼んだりもしたが、来てくれたことは一度だってなく、抵抗すれば何倍にも増して暴力は
酷くなるのを学んで止めた。

自分に宛がわれた部屋は元々ここではない畳張りの部屋だったが、広がった血の滲みが残ってしまうために
今のフローリングに移された。
囲まれるように本棚が設置されており、それはどうやら忍術書であるらしく、中にはまだ自分では
開けない封印書も混じっていた。
見た目にはアカデミーで習うレベルの忍術書に見えるため、自分をこの部屋に追いやった使用人は
ただの古い書庫だと思っているのだろう。
まだ満3歳ではあったが、火影から字を学び、それはスポンジが水を吸い込むように。
今ではこの部屋じゅうの本棚を制覇しつつあるほどになっていた。
いくつか使える術もある。
ただ誰かに使ったことはない。

自分を痛めつけに来る者達はこぞって、「狐め」「何故お前が生きているのだ」「私の――を返せ」と言う。
彼らの言葉を繋ぎ合わせて意味を考えてみるには、自分は狐の化け物で、彼らの家族や知人を殺害し、
そのため彼らは自分にその罪を償わせようと暴力を振るう。
確かに自分が他の人間達と少し違うことには気づいていた。
どれほど酷いケガでも翌日には何もなかったかのようにきれいさっぱり消えているし、腹の奥に
“何か”を感じる。
しかし彼らの家族らを殺したなどと言う記憶はない。
ただ自分が忘れているだけなのか。
自分が狐の化身であったことを忘れ、人間の姿にされているだけなのか。
彼らが嘘を言っているようには見えなかったため、自分は彼らの暴力に耐える義務があるのだと、
近頃はそう思うようになってきてしまった。

一度、火影が訪ねて来た際に聞いたことがある。
その時老人は悲しそうに顔を歪めて首を振ったが、それをナルトは肯定と取ってしまったのだ。



ぱたり。

窓から横降りなのか雨水が入ってきた。
足元に丸い染みが増えていく。

ざあっと勢いが増す音がした。



あめ・・・雨、そとは雨。


だんだんと痛みが引いて行く。
一番深かったわき腹の傷はもう紅い跡を残すのみになっていた。


いつまで耐えれば許してもらえるのかな


この雨が止んだら


次の満月になったら


もう少し大きくなったら


痛い思いしなくていいかな




ねえ







いつまで?






















モドル