「ナルトは野菜が嫌いかな?」
「えっ・・・」
珍しく暇を作って訪れて来てくれた老人は、煙管を吹かせて言った。
「女中らがあまり食事を取ってくれないと言っておったぞ」
「・・・ごめんなさい」
「わしも昔は好き嫌いがあったが、今はない。食べたくても食べられぬ子もいる。
ゆっくりで良いからちゃんと食べるようにしなさい」
細い手足に心が痛む。
唯一優しく接してくれるこの老人に、自分がこんな顔をさせている。
子供はその表情を見てとても後悔した。
「ちゃんと食べます・・」
だから、そんな顔をしないでください。
ちゃんと食べます。
約束します。
金色の子供(2)
馴染んだ気配に目線だけ部屋の入り口に向ける。
トレイに食事を乗せて入ってきた使用人はこちらを視界に入れることもなく、
目の前に置いて数歩離れてこちらをただ監視する。
彼女は子供が食事を完璧に終えるまで傍でじっと見ているのだ。
子供が黙って箸を取る。
緊張にじっとり額が濡れる。
子供は日に1度ある食事の時間が一番苦手だった。
食べるという行為意外で口を開くことも許されず、食事を残すことも許されない。
いつも食事は冷え切っていて、冬でもあたたかいものは出なかった。
それが常だったので食事とはこういうものなのだと子供は疑わなかったが。
野菜の煮付けに箸を伸ばし、気合いを入れて口に放り込む。
瞬間、ビリっと舌に痛みが走る。
頭に響くくらいの刺激に歯の根が浮いた。
「・・っ・・・」
ああでも、
(いつもよりマシだ・・)
本当はさっさと平らげてしまいたいが、一度一気に胃に流し込んだためか意識が飛んでしまったことがあったため、
子供は辛くともできるだけゆっくり時間をかける努力をしていた。
痛みは少し待てば引いて行くのを知っていたので、飲み込んだあと、舌を何度か噛んで
麻痺が取れたのを確認してから次を租借する。
機械的に食事を片し、使用人がトレイを持ち去り、彼女の気配が結界の外に出たのを確認してやっと気を緩めた。
「・・・っう・・」
途端、催した吐き気に洗面台へと走る。
全て吐き出し、口を漱いだ。
(今日は無理だった・・・)
ああこんなことしたら、またあの老人に悲しい顔をさせてしまうのに。
子供は膝を抱いて泣いた。
***
「失礼します」
コンコンと軽いノックに、入れ、と中から声がした。
「おおシカクか」
「お久しぶりで」
軽く会釈し、膝をつく。
「無事完了致しました」
書類を手渡し、老人がざっと目を通すと、ご苦労じゃったと目元を緩めた。
無事に帰って来ることは、何よりもの朗報だ。
「火影様」
そっと目配せしてきたシカクに、わかった、と頷き人払いをして結界を張る。
「どうした?」
「ナルトのことでお話があるのですが」
老人は少し間をおき、申せ、と先を促した。
「うちの倅を友達にどうかと思いましてね」
シカクの言葉に老人が驚く。
ナルトのことを4年前に襲った九尾と同一視する里の民はあまりに多く、子供であるのに同じ年頃の
子供を宛がうのを誰もが許さない。
「お主の子も4つであったな・・・」
「ええ、同い年です」
「そうか・・いや、そんな申し出は初めてなもんでな・・・」
あの子供を憎しむ者ばかりでもないことを知り、老人は笑った。
「・・・何の突然変異かうちの倅、大人顔負けに頭が回るらしくてな」
褒めているのか貶しているのわからぬ口調で笑う。
「自分であの事件を調べ上げてナルトまで辿りついた。それから会わせろとうるさくて・・・」
よく見ればげっそりとやつれた感がある。
「わしもあの子に友人ができれば、と思っていたところじゃ。しかしお主はそれで良いのか?」
親としては本当は反対なのではないかと。
「こっちとしては願ったり、ですよ。いずれは会わせてやるつもりだったし。あの事件のことが
理解できる年齢になったら、と思っていたんですが・・」
思いのほかその年齢が早くきてしまい、しかも自分で勝手に調べ上げてしまった息子に賞賛よりも呆れてしまったほどだ。
「で、どうですか」
「ぜひ会ってやってくれ」
枯れた涙が老人の目を濡らす。
それに気づかないフリをして、実はもう連れて来てるんです、と結界を解除し扉を開く。
「・・・ん?」
「どうした?」
「・・あいつどこ行きやがった・・?」
待たせておいた子供がひとり、行方をくらませていた。
モドル