急に目まぐるしく変わった景色は

とても広く


眩しく




美しかった





金色の子供(5)







「大丈夫か?本当に?」
しきりにそうたずねてくる子供は自分より少し背のある黒い髪をしていた。
いくら平気だと伝えても。
ほら、もう治ってる、大丈夫でしょう?
夜の訪問時に起きることが今さっき起きただけのことです。
ああ、きっと着物が泥と土で汚れていたままだったからそう言うんですね。
いつものことです、だから大丈夫。
そう答えると、彼はますます眉間に皺を寄せて。
繋いだ手に力が入って、それに気付いてごめんと緩めた。

ふしぎなひと。
突然やってきて、外へ連れ出してくれて、たくさん教えてもらって。
繋いだ手。
こんなふうに触ってくれたひともあなたが初めてです。
あの優しい老人も時折頭に手を置いてくれるけれど、あなたはまた違った優しさでもって
触れてくれる。

「・・・とにかく一度戻ろう。実は俺の親父も来てて・・・きっと今頃探してるんだろうな」
はあ、と嫌そうに息をつき、
「シカマル・・・あのひと達は・・・」
目だけでシカマルによって気を落とされた使用人達を示す。
「あんなもの捨て置け」
お前をそんな目に遭わせた奴らだぞ?
心配そうに見やるナルトに、呆れてしまう。
「ナルはすぐに治りますから・・・」
「そういう問題じゃあない。その辺をお前はわかってない」
不機嫌そうな声色に、何がシカマルをこんなに怒らせてしまったのかわからないナルトが
しょんぼりと項垂れた。
原因はきっと自分なのだ。
今までだって、自分の知らないとことで彼らはいつも自分に怒っていた。
「それにお前、どうして抵抗しなかった」
「え・・・」
「お前、多少何かできるだろ」
殴られていたとき、微妙にからだをずらして急所を避けていた。
「・・・・・・」
「何で抵抗しない」
質問の声が鋭い切っ先のようで、ナルトは正直に答えた。
「・・・加減が・・・わからないです・・・」
「何度か試せばいい」
「ケガを・・・させてしまうかもしれないです・・・」
「ケガさせられてる側がよくそんなことが言えるな・・・」
繋いだ手を引っ張られ、空いた手で肩をがしりと掴まれた。
「今度からちゃんと抵抗しろ、ケガをさせたくないのなら幻術で何とかしろ」
知らなければ学べ。
「ナルに・・・」
そんな資格があるのでしょうか・・・?
「お前は何も悪くないだろ?」
「でも・・・皆・・・」
自分が悪いと、憎いと、死んでしまえば良いと言う。
「あいつらはおかしいんだ。あいつらと俺のどちらを信じる?」
「・・・シカマル・・・」
そう答えるとシカマルの顔が夕日のせいなのかさっきより紅く見えた。



結界をくぐると中から見知った気配と知らない気配がひとつずつ。
「ナルト!!・・・その格好・・?!」
「火影さま・・・」
今まで一度たりとも結界の外になど出なかったから、さぞ心配だったのだろう。
初めて見るろうばいぶりにナルトは驚いた。
実際は、血と泥で染まったナルトの姿に驚いたのだが、ナルトは自分が外に出たことに対して
だと考えていた。

「その・・・格好は・・」
「あんたの使用人達がやったんだ」
ナルトのことで頭がいっぱいであったため、その隣に佇む小さな影にやっと気付いた。
「お主が・・・」
シカクの、と続く前にゴンと重い音が部屋に響いた。
ナルトのとなりで、それでも手は離さず蹲る。
「っ・・・くそ親父っ・・・」
「しっ・・しかまる・・・」
ギっとシカマルの睨む先には、彼をそのまま成長させたような大きな大人が顔を引きつらせていた。
「元はお前が連れ出したからだろうが!」
大丈夫か?とナルトのからだにケガがないか調べるシカクは、やはりシカマルに似ていて
つい魅入ってしまった。
「あの、あの・・・ナルが悪いんです・・・だからシカマル怒らないでください・・・
代わりにいくらでも・・・気の済むまで良いですから・・・!」
「は?いや、・・・」
縋るようにシカクの服を握り締め懇願する金髪に怒気も萎えた。
しかも今の言い方からすると、自分がこんな息子と同じような年齢の小さな子供に
手を出すかのような・・・。
ナルトの日常をかいま見た気がした。
ちらりと目を配ると、火影も気付いたようで苦い顔をしていた。

さきほど訪れた、この廊下の先にあるナルトの部屋からは、窓辺辺りに血の匂いが充満し、
床板は赤黒く染まっていた。
火影は本当に知らなかったのだろう、呆然としばらくそこに立っていた。
いつもは隣にある一見茶室のような部屋で会って話をしたりしていたので気付かなかったようだ。

「あんたが火影・・?」
「そうじゃ・・・」
胡乱げに見上げてシカクにあんたとは何だ“様”をつけろとまた怒鳴られて。
「こいつ、俺と一緒に暮らせねぇ?」
シカマルの思いもよらぬ発言にナルトはぽかんと立ち尽くす。
「シ、カ・・・?」
「こいつこのままここにいたら死ぬぞ」
「・・・」
冗談を言っているのではない、と子供とは思えぬ真剣な眼差し。
「いくら腹にいる九尾の回復力をもってしても、そのうち追いつけなくなるほどの
傷をつけられたらいくらなんでも死んでしまう」
「・・・外は危険なんじゃ。現に・・・」
ちらりと血塗れたナルトを見て息を吐く。
「これはあんたんとこの使用人がやったんだぞ!ここにいたって危険だ!!」
「・・・今いる使用人達を全て替えよう」
「結果は同じだろ・・・!」
「・・言い過ぎだ」
ぽんとシカマルの頭に手を置いてシカクが仲裁に入る。
「火影様、提案があるのですが・・・」
申せ、と小さく頷く。
「ナルトを2,3日預からせてもらえませんか」
「しかし・・・」
「明日、明後日までは私も妻も任務はありませんし、傍にいるつもりです。次の使用人が決まるまで
息子の友人を2,3日泊まらせてやりたいのですが」
「・・・」
しばらく老人は黙り、ふと金髪の子供を窺う。
「お主はどうしたい?」
「え・・・」
どうしたい、とはシカマルと共に行くことを選んでも良いということだ。
「お主が良いように決めなさい」
「―――・・・」
そっとシカクを見上げると強面ながらも優しく微笑んだ。
「うちはぜひ来て欲しいがな。愚息が跳ねて喜ぶ」
誰が跳ねるか、と心で吐き捨てシカマルはナルトの手を強く握る。
「来いよ」
シカクは2,3日と言ったが、その間に一生こいつの傍にいられる方法を考えねば。
こんなところ置いては行けない。
むしろ俺がお前を手放せる気持ちを持っていない。
「・・お邪魔しても・・・」
良いですか、と上目遣い。
凶器だ、とその愛らしさにぐらりときたシカクはやはりシカマルの親だった。
思わず抱きしめようと近寄ったら威嚇するようにナルトの前に立ちふさぎ睨む我が息子。
「ちょっとくらいいいじゃないか!」
「母ちゃんに言いつけてやるからなっ」
「言いつけるって・・」
またもや言い合いを始めた奈良親子に老人は溜め息ひとつ。
同じようにぽかんとそのやりとりを見つめる子供に、
「すまなかったな・・」
「・・?」
きょとんと見上げるナルトにただ首を振って。
楽しんでおいで、と頭を撫ぜた。


















モドル